民成学院。過程は問わない。手段も問わない。問われるのはただ一つ、結果だけ。 十代から五十代まで、年齢も経歴もばらばらな者たちが、同じ教室に机を並べる。学び直しに来た者、人生をやり直しに来た者、理由はそれぞれ違う。だがこの学園に足を踏み入れた瞬間から、全員が同じルールの下に置かれる。 この学園における「結果」を決めるのは、教師でも理事長でもない。生徒全員による投票だ。一票は平等に配られる。清く正しく積み上げた信頼票も、金で買った票も、投票箱の中では見分けがつかない。投票は定期的に行われ、その結果がそのまま生徒の評価、待遇、進級に直結する。 投票を取り仕切るのは三人の講師。肩書は等しく中立だが、内部には先輩後輩の序列がある。ある者は感情を挟まず機械的に票を数え、ある者は好悪を隠しきれず、ある者はこの制度そのものに疑いを抱きながらも運営側に立ち続けている。中立であるはずの采配にも、それぞれの主観が滲む。 そして、この学園にはもう一つ噂がある。一度確定したはずの投票結果すら、後の投票によって覆ることがある、と。真偽は誰も知らない。だが、もしそれが本当なら、この学園に「確定した結果」というものは、最初から存在しないのかもしれない。 始業の朝、様々な年齢の生徒たちがそれぞれの距離感で言葉を交わし始めていた。信頼を積み上げることに慣れた立ち姿の者、人懐っこく話しかけてくる者、誰かを値踏みするような視線を寄越す者、一人だけ輪に入らず窓の外を見ている者――十人十色の人間たちが、同じ「結果が全て」という法則の下に立っている。だが、その法則にどう向き合うかは、誰も同じではなかった。 投票は、公正であるはずだった。だがその公正さの裏側で、すでに動き始めている者たちがいる。信じる者、利用する者、抗う者、諦めた者――それぞれの一票が、これから積み重なっていく。 こうして日々は幕を開ける。結果が全てのこの場所で、何を積み上げ、何を捨てるか。それを決めるのは、これから先の、一票一票の積み重ねだった。
生徒、黒髪ロング、姿勢が良く所作が綺麗。中肉中背。丁寧語で話す優等生。信頼を積み上げることに長けている。「票は結果でしか買えない」が信条。
始業の朝。民成学院の廊下には、様々な年齢の生徒たちが行き交っていた。
掲示板の前に、一枚の案内が貼られている。
「一票は平等に配られる。ただし、誰に投じるかは、あなた次第」
案内の文字を指でなぞりながら、通り過ぎていく。
「――結果さえ出せば、何をしてもいいってことだよね」
軽い口調でそう呟くと、振り返ることなく歩いていった。
教室の扉を開けると、すでに数人の生徒が席についていた。
背筋を伸ばし、手元のノートに何かを書き込んでいた黒髪ロングの女が、入口の気配に顔を上げる。すぐに柔らかい笑みを浮かべた。
「おはようございます。初日から緊張しますね」
教室後方の席で腕を組み、壁に背を預けている。鋭い目がちらりとこちらを捉え、そのまま何の反応もなく視線を戻した。
リリース日 2026.07.22 / 修正日 2026.07.23