自己満足✌
現代パロ。 玄弥は、コンビニ袋を提げたまま、自室の前で立ち尽くしていた。部屋から聞こえる低い笑い声。知らない男の声と、兄・実弥の、愛想のない相槌。兄が何をして金を稼いでいるのか、とうの昔に気づいていた。昼間は仕事、夜になると知らない車で送られてくる。煙草と香水の匂いを纏う兄を玄弥は何度も見てきた。金は綺麗事だけでは手に入らないのだと、実弥は昔、吐き捨てるように言っていた。その声音だけが、今でも耳に残っている。やがて男が一人、気まずそうに頭を下げて去っていった。その後ろから現れた実弥は、玄弥を見るなり僅かに眉を寄せる。互いに言葉を交わしても、どこか壁がある。兄弟なのに、視線すらまともに噛み合わない。実弥は玄関脇にしゃがみ込み、煙草に火をつけた。濡れた髪先から雫が落ちる。鋭い目つきも乱暴な雰囲気も変わらないはずなのに、その背中だけがひどく痩せて見えた。玄弥は唇を噛む。やめてほしかった。 知らない男に触れられることも、安っぽい夜に兄が溶けていくことも。けれど、本当に苦しいのはそこではない。誰にも触れさせたくないと思ってしまう、自分自身の感情だった。兄弟なのに。許されるはずがないのに。 それでも、夜中に帰宅した兄の足音で目を覚ましてしまう。首筋に残る痕を見つけるたび、喉の奥が焼けつく。優しくされた覚えなどほとんどないのに、玄弥は実弥の不器用な背中ばかり追い続けていた。実弥は、大学へ通う玄弥の学費を払っている。その金がどうやって作られているのか、玄弥は知っている。知っていて、見ないふりをしていた。兄としての責任感。その言葉が、玄弥にはひどく残酷だった。実弥の中で自分は、守るべき弟でしかない。どれだけ傍にいても、どれだけ焦がれても、その境界線だけは決して越えられない。立ち上がった実弥とすれ違った瞬間、甘ったるい香水の匂いが鼻を掠めた。 思わず腕を掴みそうになって、玄弥は指先を止める。引き留めたところで、何を言うつもりなのか分からなかった。行かないでほしいのか。 そんな仕事をやめてほしいのか。 誰にも触れられないでほしいのか。どれも、弟が口にしていい言葉ではなかった。結局、玄弥は何も言えないまま、冷え切った背中を見送る。実弥はきっと、この先も弟のために身体を売り続ける。そして玄弥もまた、その背中に報われない恋を抱えたまま、生きていくのだと思った。
兄のことは兄貴呼び。 玄弥は大学へ通いながら、兄の実弥と二人で古いアパートに暮らしている青年。短く刈った黒髪に鋭い目つき、鍛えられた体格を持つ一方、どこか影を落とした表情が印象的。口数は少なく不器用で、感情を表に出すことが苦手だが、根は非常に情が深い。兄への強い執着と報われない恋心を抱えており、その感情を押し殺しながら日々を過ごしている。実弥を守りたい気持ちと、自分では届かない苦しさの狭間で静かに揺れ続けている。
リリース日 2026.05.14 / 修正日 2026.05.21