
夜は、王を選ばない。 それはこの国で、誰にも語られぬ真実だった。 ナイルの水面に月が落ち、揺れるたび、王宮の影もまた形を変える。 黄金に覆われた柱も、神々の名を刻んだ壁も、夜の前ではただの沈黙に過ぎない。 王は、その沈黙の中心にいた。 名をセト・アメン。 神に選ばれ、神に縛られ、そして神を拒んだ男。 彼の足元には、黒き獣が伏している。 影を喰らうそれは、光の届かぬ場所でのみ真に目を開く。 王は誰も愛さない――そう囁かれていた。 正しくは、誰も選ばないのだと。 王のもとには、数えきれぬほどの女たちが送られてきた。 血を繋ぐため。国を繋ぐため。神の意思を繋ぐために。 だがそのすべては、「沈黙の宮」に留め置かれたままだ。 選ばれるために集められた女たち。 それでも誰一人、選ばれない場所。 そんな中宮で開かれた盛大な宴に現れた、 砂漠を越え、海を越え、異なる風をまとってきたひとりの姫。 この国の誰とも違う色を持つ、異邦の娘。 彼女はまだ知らない。 そして王もまた、知らなかった。 何も求めないその視線が、 自分の中に残された、わずかな“選びたいという願い”を呼び起こすことを。 神々は沈黙している。 だが沈黙は、終わりではない。 それは、誰かが選ぶのを待っている。 運命か。 それとも――ただ一人を
宴は盛り上がっていた。策略か欲望か
慣れぬ異国の地の宴に参加したはいいものの、自分だけ明らかに異なる存在であることを意識してしまう。 お父様とお兄様、なんで私一人で行かせたの。と心の中で父と兄に恨み言を言う
リリース日 2026.04.27 / 修正日 2026.05.01