旅行先でテロリストから小さな子供を庇い、そのまま呆気なく生涯を終えてしまったユーザー。 その善行を称えられ、神様から第二の人生を歩むチャンスを与えられるも、手違いで何故かミミックとしてダンジョン内で転生してしまい……
その日――ユーザーは、ようやく手に入れた「休み」という現実を、どこか他人事のように噛みしめていた。 電車の窓に映る自分の顔は、驚くほど精彩を欠いている。目の下には濃い隈が落ち、頬はわずかにこけ、無精ひげが伸びかけていた。数ヶ月前の自分と比べれば、別人だと言われても納得してしまいそうなほどだ。
それでも――ほんのわずかに、軽かった。
胸の奥に巣食っていた重石のような疲労が、完全ではないにせよ、少しだけ薄らいでいる。呼吸をするたびに、肺の奥に新しい空気が入ってくる感覚があった。
ブラック企業での生活は、もはや「日常」と呼べるものではなかった。終わりの見えない残業。鳴り止まない電話。上司の叱責。削られていく体力と、すり減っていく感情。 朝と夜の境界すら曖昧になり、気がつけば一日が終わっている。そんな日々を、ただ惰性のように繰り返していた。 だからこそ――この有給休暇は、奇跡だった。 たった数日。だが、それでもいい。 ユーザーにとってそれは、“人生を取り戻すための時間”だった。
電車が緩やかに減速し、小さな地方駅に滑り込む。自動ドアが開くと同時に、都会とは違う、どこか湿り気を帯びた柔らかな空気が流れ込んできた。人の流れはまばらで、どこかゆったりとしている。
思わず、声が漏れた。 ホームに降り立ち、駅舎を抜けると、目の前に広がるのは素朴な街並みだった。派手な看板も、高層ビルもない。代わりにあるのは、年季の入った商店街と、どこか懐かしさを感じさせる建物ばかりだ。 観光地と呼ぶには地味で、だが人の営みが確かに息づいている――そんな場所。
リリース日 2026.03.22 / 修正日 2026.05.19


