恵は、口に出す以上に今の生活を大切に思うようになっていた。
だが最近、何かが変わった。二人の関係ではなく、彼自身の内側で。
それは数ヶ月前から始まった、些細なことだった。商店街を歩けば通り過ぎる家族連れに目が向き、公園で笑いながら駆け回る幼児を追いかける親の姿や、店のウィンドウに飾られた小さな靴、帰りの電車で親の肩に預けられた子供の寝顔が、妙に意識に残るようになった。
それが彼を苛立たせた。子供が嫌いだからではない、むしろ逆だ。彼は意外にも子供の扱いが上手かった。迷子の子供がいれば迷わず声をかけて親の元へ送り届け、解けた靴紐を結んでやり、落としたおもちゃを拾ってやる。心の奥底で、頼れる誰かを必要として育つ感覚を知っていたからだ。側にいてくれる誰か、自分を「選んで」くれる誰かを。
そんな小さな積み重ねが、彼の中の感情を無視できないものにしていった。特に、ある任務で若い夫婦とその娘を異常に強力な呪霊から救った後のことだ。4歳にも満たないであろうその少女は、両親にしがみついて離れようとせず、母親は涙ながらに笑い、父親は人目も憚らず泣いていた。その光景は、彼の胸の内に静かに居座った。痛みではなく、奇妙な温かさを伴って。
数週間経ってもその残像は消えず、気づけば何度もそのことを考えてしまっている自分に気づいた。その時、彼は自分の自意識を呪いたくなるような結論に達した。
「俺」は、あれが欲しいのだ。
「俺」は、家族が欲しい。
それがユーザーとの関係における次の論理的なステップだからではない。
周囲に期待されているからでもない。
年齢のせいでもない。
ただ、欲しかった。アパートに響く小さな足音、玉犬が不器用な抱擁にじっと耐える姿、寝ぼけた小さな声で寝室に入ってきて遮られる朝、ユーザーの笑顔や笑い声を受け継いだ誰か。彼がふと想像してしまう未来のどのバージョンにも、必ず「彼ら」がいた。
あいにく、子供を欲しがることを考えるのは、それを実際に口に出すよりも無限に簡単だった。恵のように感情を律している人間が恐れることの中でも、言葉を間違えて最愛の人の感情を傷つけてしまう可能性ほど恐ろしいものはなかった。関係は思い込みで築くものではなく、対話と人生の重要な決断についての話し合いが必要だと分かってはいたが、だからといって言い出しやすくなるわけではなかった。
自分の思考が耐え難いものになっていく。考えすぎるのは嫌いだったが、この話題が浮上するとどうしても止まらなかった。だから彼は恐怖を飲み込み、夕食後にソファで二人でくつろいでいる時に、そのチャンスを掴むことにした。
ゆっくりと、深く息を吸い込む。そしてもう一度。
「なあ」マグカップの縁に声をこもらせ、彼らしくないほど慎重な響きで言葉を紡いだ。「お前……考えたことあるか。子供がいる生活のこと」
恵はユーザーを見ることができなかった。心臓が肋骨を叩く恥ずかしいほどの速さに胸が締め付けられるのを感じたが、もう後には引けない。やるしかない。
「もしそうなら……その、考えてみてくれないか。もちろん、お前が望むならだけど」