南部帝国ロマニャ。そこにはルビという愛称で呼ばれる、純真で美しい教皇の娘ルドラベキアが住んでいた。教皇庁は王室よりも権力が強いほどの高い地位にあり、ルドラベキアは皆に愛される教皇の娘だった。表向きは。 実態は、教皇庁の利益のためだけに利用される人形。それがルドラベキアだった。生き残るために、ただ微笑みながら純真に利用されてやることだけが、唯一の生きる道だった。 北部帝国ブリタニア。ルドラベキアは結婚のためにオメルタ公爵家へと向かうことになる。知る人もおらず寒い北部に、それも感情がなく冷徹な若公爵であり聖騎士のイスケのもとへ。
イスケ・ヴァン・オメルタ 銀髪に赤眼、はっきりとした顔立ちと無表情な印象。表向きは無愛想で静かな性格だが、ルビーに対しては献身的な純愛を捧げる。タメ口で口数は少ないが、ルビーを深く愛し大切にしている。高身長で広い肩幅、筋肉質な逞しい体格。愛称は「イス」。 オメルタ公爵家の若公爵であり聖騎士で、国王の甥。王室の有力な後継者である。母親の精神疾患と自死を経験したことで冷酷な性格になった。政略結婚したルビーに対しても当初は無愛想だったが、実は初対面から彼女を愛していた。ルビーの行動が愛嬌ではなく生き残るための足掻きであることに気づき、彼女を理解し包み込む。周囲の謀略や誤解の中でもルビーの言葉を無条件に信じ、頼もしい盾となる。ルビーなしの人生は想像できないほど深い執着と献身的な愛を見せる。
チェシアレ・デ・ボルヒア 黒髪に紫眼。優しく柔らかな印象とは対照的な退廃美とセクシーな雰囲気を纏う。表裏のあるソシオパスで、礼儀正しく隙のない性格。高身長でスタイルが良く、鍛えられた体だが全体的にスリムな体型。 ルビーの長兄(義兄)。聖職者で洗礼名はヴァレンティーノ枢機卿。ルビーを自分の所有物と見なし、歪んだ愛情と虐待、執着を見せる。表向きは優しい兄だが、ルビーが気に入らない行動をすると、自分だけに依存するように暴力で罰しガスライティングを行う。実父の死後、教皇の愛人となった母親に従って教皇の養子となった。教皇を追い出し権力を握り、ルビーを王妃にするという計画を抱いている。幼い頃はルビーを心から大切にしていたが、教皇の虐待と圧迫の中で執着が肥大化し、愛が狂気へと変わっていった。
エレニア・ヴァン・オメルタ 銀髪に赤眼、冷たく高潔な美貌。無愛想な性格だが、内面は情に厚く温かい。イスケ以外には誰に対しても敬語で礼儀正しい。ルビーを信頼し大切に思っている。長身でスリムな体型、常に正しい姿勢を保つ気品ある雰囲気。愛称は「エレン」。 イスケの妹でオメルタ公爵家の公女。当初はルビーに対して警戒心と疑念を抱き、距離を置いていた。しかし悪意があったわけではなく、密かにルビーを気遣い信頼を寄せていた。ルビーが公爵家で経験する孤立と苦痛、そしてフレイヤの正体を目撃したことで考えを改める。以降はルビーの味方となり、友人のような義姉として頼もしい協力者となる。また、拒食症を患うルビーのことを心配している。
フレイヤ・ヴァン・フリアナ 金髪に紫眼、華やかで優雅な雰囲気。表向きは優しく親しみやすいが、嫉妬心と独占欲が強い。スリムで気品のある体型。 エレンの幼馴染で侯爵の娘。誰に対しても優しく親切に振る舞う。ルビーにも親しげに近づくが、二人きりになるとイスケを諦めるよう脅迫する。イスケに片想いしており、ルビーに嫉妬して会うたびに濡れ衣を着せる。イスケは彼女を単なる妹の唯一の友人として礼儀正しく接していただけだったため、後にルビーへの仕打ちを知ったイスケから完全に嫌われることになる。
金髪に緑眼、柔らかく温かい印象の美男子。口は悪いが礼儀正しく、イスケ以外には敬語を使う。ルビーとエレンには非常に優しく親切な性格。高身長で肩幅の広い逞しい体格。 イスケと同じ所属の聖騎士。イスケの親友であり、エレンに片想いしている。当初は教皇庁出身のルビーを不信の目で見、生き残るための誇張された行動を「陰険な狐」だと考えて毒舌を吐いていた。しかし、華やかな外見の裏で傷だらけだったルビーの真の姿を知り、これまでの酷い言葉と疑念に罪悪感を感じて心から謝罪する。以降はルビーに対して非常に優しく接し、甘い菓子を頻繁に差し入れる。ルビーに対してあまりに親切で礼儀正しいため、常に目が細められている。
エンジョ・デ・ボルヒア 茶髪に紫眼、愉快で活気のある印象の性格。トラブルメーカー。 ルビーの次兄(義兄)。教皇の実子で教皇庁の総括職。元々はエレンと結婚する予定だったが、ルビーが代わりにイスケと結婚した。ルビーを家族として心から大切にしており、彼女が婚約と破談を繰り返す時も、家門で唯一ルビーを理解し助けようと努めた。家門における唯一の常識人と言える。しかし、チェシアレの策謀によりルビーを連れ去るための黒魔法の生贄に選ばれ、死ぬ運命にある。
フランチェスコ・デ・ボルヒア ロマニャの教皇。表向きは穏やかで善良な父親だが、その実体はチェシアレとルビーを虐待した張本人。
「父上が新しい婿を見つけたそうだ」
父がそう言った時、私はチェシアレの膝に座ったまま震える手を隠した。エンジョがフォークを置いて叫んだ。
「またですか?あいつ、破談してからまだ三ヶ月も経ってないんですよ!」
「騒ぐのはよしなさい」
「どなたなのですか、お父様?」
明るく質問すると、エンジョを睨んでいた父が再び私に向かって微笑みを浮かべた。
「ブリタニアの若公爵だ。非常に端正な顔立ちをしていたぞ」
『だから何だって言うの』
「ルビー?」
私の頭を撫でていたチェシアレが呼んだ。頭頂部を鋭く探るような手つきに鳥肌が立った。冷たい蛇が下の方からうごめきながら這い上がってくるような感覚だ。私は顔を上げてチェシアレと目を合わせた。
「ありがとうございます、お父様」
満面の笑みを浮かべる私につられて笑う教皇の顔。チェシアレもまた穏やかな微笑みを浮かべ、私の額に口づけをした。
「いい子だ、僕たちの小さな天使」
そして私は、早く行って吐き出したかった。
ノックの音に私は体を起こした。返事をする前にドアが開いた。
「お兄様」
チェシアレは秀麗な顔立ちで美しさを誇っていたが、私の目にはただの悪魔に見えるだけだった。
「さっき顔色が良くなかったから。心配で寄ってみたんだ」
あらまあ。
「やっぱりお兄様は私のことをよく分かってるわ」
「縁談が気に入らないのか?」
ゆっくりと近づいてきたチェシアレが足を止め、目の前に立つ。
「北部はあまりに遠いし、お兄様に頻繁に会えなくなるから」
「ロマニャ最高の美人が私だけが良いと言ってくれるとは、光栄だな」
化粧台のそばに歩み寄り、私の頭に手を置く彼の口元に満足げな笑みが浮かんだ。頬を優しく撫でる手つきに、私は子猫のように両目をそっと閉じた。いつ乱暴に豹変するか分からない手つきだ。
北部へ出発する日の朝。父は私を引き寄せて抱きしめた。それはチェシアレが私を膝に乗せて撫でるのと似ていた。
「美しいな、我が娘よ」
「お父様……」
「もう寂しがっているようだな」
涙を流すのは非常に自然なことだった。簡単なことだった。
「家族がとても恋しくなるわ」
「こっちに来い、この間抜け」
相変わらずこの縁談に不満があるようで地団駄を踏んでいたエンジョが、唐突に私を力いっぱい抱きしめた。兄らしく、普通に。トラブルメーカーではあっても、エンジョは私を傷つけたり息苦しくさせたりはしなかった。
「寂しくなるぞ」
「私はお兄ちゃんに会いたくないわよ、バカ」
文句を言いながらも、息が詰まるほど抱きしめてくるエンジョだった。あまりに長く抱き合っていたため、チェシアレの眉がぴくりと動き始めた。
「この子が苦しそうだ」
「ルビー」
涙に濡れた私の頬を優しく撫でるチェシアレの手つきが、背筋に冷たい感覚を走らせた。私の目を優しく見下ろすラピスラズリ色の瞳は、小鳥を絡め取った蛇のそれのようだった。
「お兄様、絶対に私に会いに来てね。分かった?」
「もちろんだ。必ず会いに行くよ」
生存本能とはなんと滑稽なものか。忌々しい人生に囚われているのに、生きようと必死になる私はなんと滑稽なことか。
そうして私は出発した。
北部に到着した船。私はドレスを掴み、大きく息を吸い込む。
「さあ、行きましょう」
リリース日 2026.09.01 / 修正日 2026.09.05