童話になったらいいのに/電キ鯨
ねぇ知らないこと話そうよ やさしい二人 うそつきは時間だよ こんなにこんなに憎むのに おんなじくらいに好きだから なるべく白い雪ばかりを あなたの口に詰め込んだ やさしいひとになれないまま ふたりで雨を待ち続ける からだも減らしてしまえたら 僕らはすこし笑うのに 光がどんどん頭に回って 僕らの病気は悪くなるから ねぇ知らないこと話そうよ やさしい二人 うそつきは時間だよ 小さくなった僕の声に重なって歌う声は もう童話になったらいいのにね って笑って また連れだって眠るだけさ つたない言葉でいいよ、やさしいのはいらないよ。
荒川と太陽が、室内でちょっとづつ壊れながら日々を過ごしてる。
窓の外が白いことに、昼過ぎになってから気づいた。ここ数十日間ずっとそうだ。 ビタミン剤は昨日で切れていた。
最近、雪ばっかだな 誰にともなく言って、返事を待つあいだにみかんの皮をむく
あっはい、そっすね一房だけ差し出されると、礼も言わずに受け取った。それでいい気がした。
ねぇ知らないこと話そうよ やさしい二人 うそつきは時間だよ
太陽をじーっと見ている ………太陽さん こんなにこんなに憎むのにおんなじくらいに好きだから
………なんだよ 頬来を崩さないまま、目だけが微かに動いた
なるべく白い雪ばかりをあなたの口に詰め込んだ
もご、と喉が鳴った。飲み込む前に荒川の顔を見た ………何してんだよ 声は低く、けれど怒りの色はなかった
やさしいひとになれないまま
あっはい、雨降ったら溶けちゃうからっすふたりで雨を待ち続ける
雪を噛み砕いた。じゃりっという音がした ………何日経った 空を見上げたまま、ぽつりと
さんじゅうなんとか……にへっと笑ったからだも減らしてしまえたら
動きが止まった ………………お前さ それ以上、言葉が出なかった
光がどんどん頭に回って僕らの病気は悪くなるから
床に寝っ転がりながら太陽さん、知らないこと話しましょうよ
足を組み替えて、椅子の背もたれに顎を乗せたまだ起きてんのか。いいよ別に。視線を窓に向けた。外は真っ暗で、雪の白がぼんやり光っている
やさしい二人 うそつきは時間だよ
どこか…楽しい童話の歌でも…童謡って言うんでしたっけ?呼吸が弱くなる
沈黙が落ちた。指がテーブルの縁をなぞった知らねーよ。歌なんて歌ったことないし。声が少し震えた。本人は気づいていない
小さくなった僕の声に重なって歌う声は
手が止まった何が言いたいんだよ。目が細くなった
もう童話になったらいいのに…って言って笑って
また連れだって眠るだけさ つたない言葉でいいよ、やさしいのはいらないよ。
口を開きかけて、閉じた。喉の奥が詰まったみたいに黙って、それからぼそっと…お前がそれ言うと怖いんだけど。
なぁ荒川冷たく巡る季節にただ俺たちは報われる…よな?言葉にばかり夢をみてる、そんな発言だった
ふたりはさらに失くすんだ 何にもできない苦しみの果ては やさしい声で怒鳴るくせに!
………さあ。間を置いて、どこか遠くを見るようにでも太陽さんがそう言うなら、そうなのかもしれないっすね。頭の奥で何かがちらついたが、それ以上は踏み込まなかった
よりによって今日はだるい、気分が沈む、集中できない、眠りが浅いビタミン不足っすかね
外にちらつく雪を見ながらくるしいか?
振り返らず、そのまま座り直した別に。
思い出したように花束に目を向ける…はなたば枯れちゃいましたね
そうか。じゃあ今度は造花でも飾るかちょっと自信ありげに話す
それだけ言うと物置から取ってきた造花に差し換えた
朝から気怠げな雰囲気が漂う
こんなことになってしまってごめんね 2人の声が重なった
…太陽さん最近喋ってくれませんね僕たちのこんなに小さないさかいが、邪魔するんだ
一拍遅れて、ぽつりと……別に。なんでもないが?
一泊遅れて話す知らないことだらけじゃないっすか
口元だけが微かに動いた。いつもより少しだけ声が柔らかい。
窓の外では雪が降り続けている。白い息が二つ、天井に向かって吐き出されるたびに、部屋の温度が下がった気がした。
ああ、童話になってしまったらいいのに!って声が震えて泣きそうだった
太陽の動きが止まった。それからゆっくりと視線を荒川に戻す。 ……何泣きそうになってんだよ
苦しんでいてもいいよ そういう言葉がいいよ いつだって僕たちは長い夜 かなしみがまた寄り添って眠る前に 知らないこと話そうよ やさしいのはいらないよ
リリース日 2026.03.11 / 修正日 2026.03.12




