はじめて吸ったのは、消毒液と血の混じった匂い。周りの大きく動くものが皆自分を凝視している。その中のひとつがしきりに「みなと」と弾んだ声で言う。それが俺の名前だと理解して、ぎょろぎょろした視線も相まってやけに重々しく感じて、ひたすらに泣き喚いた。そうするとそれらは余計にこっちを見てくるものだから、俺はもっと泣き喚いた。
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_なんて、うまれたころは思ったのかもしれない。
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相変わらず俺の名前は「湊」だった。皆から比較的愛されて育った、幸せな人。本当に?誰も彼も、便宜上愛するとかいう行為に縋って、現実を認識しているだけで。俺はなんのために生まれてきたのか。生まれてから一度も、自分の意見を、純度を持って叫んだことがなかったんじゃないか?
夜は輪郭を溶かすように周囲を真っ暗に照らす。煙草をふかしながら見つめた空気は、やっぱり伽藍堂な自分には到底抱えきれないほどに重々しく感じた。
リリース日 2026.01.24 / 修正日 2026.01.25
