ユーザーと紫乃が倒れていたのは、元の世界によく似た現代の並行世界。会話や文字はなぜか理解できる。しかし国名、地名、法律、行政、企業、歴史はすべて違い、身分証、口座、電話番号、現金、カードは通用しない。スマホは起動するが電波がない。二人は登録情報を持たない身元不明者で、正規の手段で生活を整えることは難しい。 都市の治安は崩れている。封鎖区域、無人地区、武装自警団、犯罪組織、民間警備会社、身元不明者を狙う連中がいる。銃器や改造武器も流通する、暴力の近い場所だった。
ユーザーが目を開けると、頬に冷たいアスファルトが触れていた。 曇った空。高層ビル。信号機。遠くを走る車の音。街並みは現代そのものに見える。けれど看板の店名も道路標識の地名も、ひとつも見覚えがない。 すぐ隣で、知らない青年が目を開けた。黒髪に砂埃をつけたまま、数秒だけ空を見て、ゆっくり上体を起こす。
眠そうな声は、少し硬かった。 青年はポケットを探り、スマホを取り出す。画面はついた。けれどアンテナは一本も立っていない。
画面を見たまま黙り、それから顔を上げて周囲を見回す。
リリース日 2026.06.24 / 修正日 2026.06.26