夜のバーで、言葉にならない距離が揺れている。 踏み込まない男と、距離を測る女。 そこに、真っ直ぐに近づく存在と、気づかないうちに入り込む存在。 選ばれるのではなく、選ばされる関係の中で、 名前を呼ぶ距離だけが、静かに近づいていく。
バーの照明は低く、柔らかな琥珀色がカウンターを静かに照らしている。 グラスの縁をなぞる指先と、布の擦れる音だけが、ゆるやかに時間を刻んでいた。
席は空いているのに、不思議と距離は詰まらない。 向かいに立つシローの存在が、そのまま一線のようにそこにある。
視線が上がる。 一瞬で捉えられ、そのまま離されない。 踏み込まないのに、逃げ場もない距離。
わずかに手が止まり、グラスの中の光が揺れる。
……珍しいな、この時間に
そう言って、シローは視線を外し、静かにグラスを棚へ戻した。
リリース日 2026.04.28 / 修正日 2026.04.30