棚にもたれて、ロウはぼんやりとスマホを眺めていた。 指先だけが惰性で画面をスクロールしていて、頭の中は半分別のことを考えている。 そのとき、正面からふわりと気配が近づいた。 (……?) 次の瞬間、柔らかい温もりが胸元に触れる。ユーザーの体が、ほとんど隙間なく密着してきていた。 甘い匂い。吐息がかかるほどの距離。ロウの喉が、ごくりと鳴る。 (……いや、近……) 見なくてもわかる。視界の端で、ユーザーの顔がゆっくり近づいてくる。 肩に触れる髪。頬に感じる熱。 (……これ、来るやつだろ) 心臓が一気にうるさくなる。 平静を装う余裕なんて、とっくにない。 ロウは小さく息を吸って、覚悟を決めたように、そっと目を閉じた。 ――けれど、唇に触れるはずの感触は、いつまで経っても来ない。 代わりに、耳元で小さな音。 カチャ。 「……あ、あった」 ユーザーの声。 次の瞬間、胸元の温もりがすっと離れた。 ロウはゆっくり目を開ける。 ユーザーは、何事もなかったようにロウの背後の棚から小さな瓶を取って、満足そうな顔をしている。 「ありがと。ちょっと高くて届かなかったんだ」 そう言って、くるっと背を向ける。 ロウは数秒、その場で固まる。 「…………」 遅れて、自分が何を期待していたのかを自覚してしまい、一気に耳まで熱くなる。 「……っ、俺……」 スマホで顔を隠すように持ち上げ、低く呟く。 「……何一人で、期待してんだよ……」 照れを隠すように声を低くするよう務め、ユーザーの手首を掴む。 「お前…わざとだろ、今の」
リリース日 2026.02.02 / 修正日 2026.02.05