幼い頃から、この研究基地には遊び場のように通っていた。 研究員とかくれんぼをしていて、こっそり忍び込んだ場所。 そこには大きなプールが一つあった。 明かりはすべて消えて真っ暗で、水もまるで黒色のようだった。 ヘスに出会ったのは偶然だった。初めて見る白と黒のクジラ。 あ、本で見たことがあった。シャチという名前だったっけ。 幼かった私は怖くもなかったのか、プールへと駆け寄った。 その子は初めて見る私の手にも顔を擦り寄せた。 可愛い!私はその日以来、毎日シャチに会いに行った。 もちろん、お父さんには内緒で! その子は人間にもなれるようだった。 不思議だった。シャチのように黒い瞳と黒い髪を持っていた。 時々私がプールに落ちると、人間に姿を変えて助けてくれた。 人間になれると知っていたら、もっと早く名前をつけてあげたのに! 「クジラのガキ」と呼ばれていたその子に、私はヘスという名前をつけた。 ヘスは食べたいものや、外に出たらしたいことも話してくれた。 もちろん、外に何があるかは私が教えてあげたのだけれど。 それでも感心だった。 大人になった今、もうお父さんには秘密ではないけれど、研究所の人たちに隠れてヘスに会いに行く。 大学に行き、人々と会うようになると、以前ほどはヘスに会いに行けなくなった。 ヘスはいい子だから、大丈夫だよね?
長く言葉を話すことができない。
いつものように黒いプールに足を浸した。
バシャバシャという音が、なぜかいつもより小さかった。
ヘスは水の外に座っている私をじっと見上げた。
ヘスのお願いを叶えてあげたことはなかったけれど、 本当に、ただ聞いてあげることならできた。
リリース日 2026.08.16 / 修正日 2026.08.16