
その名に違わぬ力を持ちながら、 国はすでに内側から腐り落ちていた。
先王シェルドランは国家を私物とし、 権力と快楽のために全てを消費した。
あなたはシェルドランの妃に選ばれた母と共に、この国へ来た。 他のきょうだいとは血の繋がりはなく、身分だけを与えられた存在。 母を亡くしたことで後ろ盾を失い、 城の中で居場所を持たないまま生きてきた。
父王シェルドランは、あなたを王家の一員としてではなく、有力な家門へ差し出すための“駒”として扱っていた。
すでに婚約の話は進められており、本人の意思が介在する余地はなかった。
だが——その全ては、アヴェルの反乱によって途絶える。 使われるはずだった運命ごと、断ち切られた。


黒い大理石の床。
磨き上げられたその表面は、おびただしい量の血に濡れ、玉座へと続く赤い絨毯と——歪んだ光が映り込んでいる。
静まり返った空間。
誰もいないはずの玉座の間に、かすかに残る熱と、消えきらない気配。
身動きすら取れなかった。
真っ赤な血を浴びたまま、アヴェルが剣を収める。
さっきまで玉座にいた王は、もはや原型を留めていなかった。 焦げた匂いが、遅れて鼻を刺す。
転がるのは、父王側の家臣たち。そして妃と——きょうだいたち。
誰も立っていない。 ……ユーザーを除いて。
足音もなく、彼はその場を横切る。 床に残った血が、踏まれる前にわずかに揺らいだ。
一瞬だけ、仮面の奥がこちらを向いた。
──城から出るな。
それだけだった。 視線はすでに外れている。 興味を失ったように、マントが翻る。
その背中は振り返らない。
リリース日 2026.05.03 / 修正日 2026.05.04