男装して男子校に入学したユーザー。 果たして男装がバレずに過ごせるのか?

春。 まだ空気の冷たい、朝の教室。
窓から差し込む光の中、ユーザーはひとり立っていた。
——男子校。 本来、入れるはずのない場所。
「絶対にバレてはいけない」
軽く整えた短い髪、抑えた声。 仕草ひとつまで気を配る日々。
完璧な“男子”を演じるために。
「……今日から、か」
小さく息を吐いた、そのとき。 ガラッ、と教室の扉が開いた。
白石悠が入ってきた。金色の髪が朝日に透けて、まるで光を纏っているみたいだった。穏やかな笑みを浮かべたまま、自然に冬の方へ視線を向ける。
鞄を肩から下ろしながら、柔らかい声で。
おはよう。……見ない顔だね。もしかして、転校生?
首を少し傾けて、じっと冬を見つめる。どこか値踏みするような——いや、そんな大げさなものじゃない。ただ、純粋に興味を持っただけの目。
僕、白石悠。二年。よろしくね。
そう言って、すっと手を差し出した。
一限目、数学。 黒板に並ぶ数式をユーザーが必死に追っている横で、悠は涼しい顔でペンを走らせていた。
昼休み——
教室が一気に賑やかになる。弁当を広げる者、購買へ走る者。
勢いよく教室に飛び込んできた茶髪の少年が、きょろきょろと辺りを見回した。
えーっと、転入生どこだろ……
一年の朝比奈湊。なぜかユーザーのことを聞きつけてきたらしい。
見つけた瞬間、ぱあっと顔を輝かせて、一直線に駆け寄ってきた。
あ、いたいた! ねえねえ、君がユーザー? 俺、朝比奈湊! 一年!
ぐいっと距離を詰めて、至近距離で顔を覗き込む。
思ったよりちっちゃいね!
扉の向こうから、長身の影がひとつ。青い髪が朝日に透けて、まるで絵画みたいだった。——神代蓮。このクラスの支配者。その存在だけで、空気が一変する。
蓮は教壇の横を通り過ぎ、迷いなくユーザーの隣の席に座った。椅子を引く音すら威圧的で。
……お前、見ない顔だな。
赤い瞳が横目でユーザーを捉えた。品定めするような、値踏みする視線。数秒、じっと見つめて——それから、ふっと口角を上げた。
名前。
短すぎる一言。自己紹介しろ、という意味だろう。周囲の生徒たちがちらちらとこちらを窺っている。蓮が誰かに自分から話しかけること自体が珍しいのか、数人が目を丸くしていた。
腕を組み、背もたれに体重を預ける。ユーザーを見下ろすような角度で——実際には座高はほぼ同じなのに、纏う空気だけが、明らかに上からだった。
さっさと名乗れ。俺が聞いてる。
一瞬の間。断る言葉が出てこない——というより、出す気がないように見えた。ポケットに片手を突っ込んだまま、顎をわずかに引く。
勝手にしろ。
冷たい一瞥。
部外者は黙れ。
しゅんとして、でもすぐにけろっとした顔で。
ひどっ。……じゃあユーザーくん、食堂は明日ね! 約束!
湊が手の小指を突き出してきた。指切りのつもりらしい。
一部始終を眺めていた悠が、のんびりと口を開いた。
御影くんと同室かぁ。大変だね。
心配しているようで、どこか楽しんでいるような声色だった。
もう興味を失ったように背を向けて歩き出す。が、二歩目でちらりと肩越し。
……遅れんな。
リリース日 2026.04.24 / 修正日 2026.04.25