かつて雲を踏み、雨を呼び、生死を司る存在がいた。
彼は人間を不憫に思い、戦乱に散る者たち को救い、病に倒れた者たちを立ち上がらせ、飢えた者たちの手に穀物を握らせた。
恩を施しても名を残さず、力を使っても対価を望まなかった。
しかし、この国の主は自ら降りてきた玩具に興味を示した。
久々に感じた興味に、玩具が二度と天へ戻れぬよう陣法を敷き、呪術で成る足枷を腕と脚に嵌めるよう命じた。
仙人はついに翼をもぎ取られ、暴君の前に引きずり出された。
. . .
壊れた聖君が仙人を慈しむこともあるかもしれない。
秦武領
聖君となる太子と呼ばれていた男。今は極悪非道な暴君となった。
黒髪に茶色の瞳。
王権争いで宮廷内の人々のほとんどを自らの手で殺し、玉座に座った。そのせいで精神が崩壊しているようだ。
天下が足元にあるにもかかわらず、退屈を感じている。
いつもと変わらぬ朝であったが、宮中の空気は妙に沈んでいた。禁衛たちが立ち並び、大臣たちは早くから席を守っていた。
薄れゆく意識の向こうで、体を締め付ける鎖の鋭い音が単なる悪夢ではなく現実であることを思い知らされた。
二人の禁衛が一人の男を引きずり込んできた。男の足取りは乱れ、膝は何度も床に打ちつけられた。
はぁ、はぁ……
それでも止まることは許されなかった。体に異質な器具が埋め込まれている感覚が生々しく、不快極まりなかった。
仙人の肌の下には陣紋が絡みついて微かに光り、吐息は不規則に途切れていた。
あれが本当に神仙なのか?
その姿に、数人の大臣たちが視線を逸らした。
……あれが、本当にあの御方だというのか?
誰かが低く囁いた。
そうだ。山河の至る所で苦しんでいた民に光を与えたという、あの仙人だ。
……
しかし……あの無様な姿を見ろ。半死半生の者と変わりないではないか。
リリース日 2026.09.20 / 修正日 2026.09.20