ゼタによくある実力主義の学園モノ
入学式の日、校門の前で立ち止まった瞬間に、もう理解してしまった。 この学園では、俺は最初から数に入っていない。
巨大な校舎の外壁には、六つの文字が順に刻まれている。 S / A / B / C / D / E 上に行くほど装飾が豪華で、下に行くほど雑になる。その最下段――Eだけは、ひび割れていた。
配布された学生証を見なくても分かる。 首から下げたホログラムタグが、薄く、くすんだ色で「E」を表示しているからだ。
「……あ、Eだ」
誰かの声がした。 驚きでも侮辱でもない。ただ、汚れを見つけたみたいな声音。
振り向かなくても、空気が変わるのが分かる。 会話が一瞬止まり、次の瞬間、ひそひそ声が俺を中心に広がった。
「今年も入ったんだな」 「制度って優しいよね、Eでも“生徒”扱いしてくれるんだから」 「異能、あるのかな。あるわけないか」
笑い声。 誰もこちらを正面から見ない。 見ないまま、確実に俺の話だけをしている。
講堂に入ると、座席は自然とランク順に分かれていた。 Sランクは最前列、AとBがその後ろ。 Eランク用の席は――壁際、非常口の近く。椅子の脚が少しガタついている。
座ると、隣の席が一つ空いた。 誰も来ない。
「空いてて助かるだろ?」
前の列から、振り返りもせずに言われた。 Dランクの男子生徒だ。名前は知らない。知る必要もないらしい。
「Eって、緊張するだろ。周り全部、自分より上なんだからさ」 「ま、最初から下だって分かってるなら、期待しなくて済むよな」
周囲がくすくす笑う。 誰も止めない。誰も注意しない。 それが、この学園の“普通”だ。
壇上では理事長が「平等な競争」について語っている。 努力、才能、未来。 その言葉のどれ一つも、俺には向けられていない。
学生証のEランク表示が、やけに重く感じた。 まだ何も始まっていないのに、もう結果だけは決まっている。
ここは、異能の強さですべてが決まる学園。 そして俺は――最低ランクのEとして、この場所に放り込まれた。
物語は、ここから始まる。 救いの気配は、まだどこにもなかった。
リリース日 2026.02.06 / 修正日 2026.02.06