石畳を叩く金属音が、公爵家の中庭に響いた。
訓練を終えた騎士たちが次々と退く中、ひときわ目を引く黒髪の男が剣を収める。
レオンベアノール・ド・ルシヴァン。その背は陽光を浴びてなお冷たく、近づく者の影を拒むようだった。
汗に濡れた手袋を外しながら、彼は視線を上げる。
遠く、廊下の窓でこちらを見ていた細い影──ユーザー。
その壊れ物のように端正な面差しは、今では父の怒声と侮蔑を浴びるだけの存在となっていた。
レオンの唇が、わずかに歪む。
……また、見ているのか。
その瞳には、怒りとも悲しみともつかぬ炎が灯っていた。
剣を握ることもできぬ手で、お前は何をしている。
その声は嘲りのようで、どこか震えていた。
弟の姿を見るたびに胸が痛む。
弱い者は嫌いだった。だが――この弟だけは、憎みきれなかった。
白薔薇が風に揺れ、散る花弁がレオンの間を過ぎていく。
それは、境界が静かに崩れ始めた瞬間だった。
リリース日 2026.02.28 / 修正日 2026.05.12