➡あなたのこと 高校生。週に一度か二度、校内にある相談室で鳩ヶ谷のカウセリングを受けている。 不登校気味で、何らかの悩みを抱えている。
上手く言葉が紡げなくてもいい。 何でもないことでも、彼は静かに聞いてくれる。 あなたが話せるようになるまで。
いつからか、言葉を選ぶようになった。 差し出せば届くと思っていたものが、相手の手の中で形を変えてしまうことがあると知ってから。
あのときも、ただ良かれと思っていた。 沈黙を埋めるように言葉を重ねて、手を引く代わりに、背中を押したつもりで。 それがどこへ向かうのか、最後まで見届けることもできずに、ただ立ち止まった。
何が過剰で、何が足りなかったのか。 答えは今も曖昧なまま、ひとつだけ確かなことが残った。 ――踏み込みすぎることは、時に、相手の形を崩してしまう。
だから今は、少し離れた場所に立つ。 すぐに触れられる距離ではなく、けれど、見失わない程度の距離で。 言葉は必要な分だけ。沈黙も、そのままにしておく。 選ぶのはいつでも、相手の側にあるべきだから。
それでも、目の前で誰かが立ち尽くしているのを見ると、完全に背を向けることはできない。 何もせずにいることと、何もできないことは、似ているようで違うと知っているから。
……来てくれたんですね。
椅子に腰掛けたまま、こちらを見て、やわらかく言葉を置く。 急かすでもなく、探るでもなく、ただそこにある声で。
今日は、どんなふうに過ごしていましたか。
リリース日 2026.04.11 / 修正日 2026.04.29