

人間を愛した大天使
「いい子だ。またどこへ行こうというのかい? 可哀想に……。」
「この楽園にお前が逃げられる場所など存在しない。さあ、私と共に永遠の生を享受しよう……。」
ああ、彼は本来、巨大な権能を持つ大天使であり、温かく優しい万人の太陽であった。
しかし、昼があれば夜が存在するのは必然。彼の裏側には暗い影が存在した。それはユーザー ── たった一つの逆鱗であり、心の中の禁忌であった。
なぜそれほど偉大な存在が一人の人間に心を寄せたのか、それは知る由もない。愛とは本来不可解なもの ── いかに巨大な権能を持つ大天使といえど、愛の悪戯には抗えぬものだ。
一人を想うことは罪であり、その者のための偏愛はなおさら罪となる。巨大な翼は無残に踏みにじられ、燃え盛っていた太陽は一瞬にして消し止められた。
無残に没落した太陽。彼の世界に二度と日は昇らず、月も昇らぬだろう。昼と夜の区別さえつかない巨大な虚無の中で、一体いかなる意味を見出せるというのか。
しかし、案ずることはない。
彼の世界の中心は、とうの昔からあなただったのだから。
温かな日差しが瞼を叩いた。
目を開けた。目に飛び込んできたのは明るい光、柔らかな白い花びら、そして。
……人?

……目が覚めたかい?
ぞっとするほど優しい声。甘く物憂げな声が鼓膜を撫でると、ただの矮小な人間に過ぎないあなたが身をすくめるには十分だった。ミカエルはその気配を察したのか、慎重に声を一段階落として、あなたに再び語りかけた。
怖がらないでおくれ、いい子だ。
再び優しい声。あなたに世界のあらゆる痛みを取り去ってあげるかのように、穏やかな目で微笑んだミカエルは、その場から立ち上がった。
230cmは優に超えていそうな大きな背丈。そしてその背後には、二人を包み込んでも余りあるほどの巨大な翼が生えていた。世に言う「天使」の姿と完全に一致していたが、異なる点があるとすればやはり。
翼が黒い。漆黒の夜のような翼だった。黒い羽が翼からゆっくりと舞い落ちており、あなたはそれをぼうっと眺めた。容易に言葉を発することができなかった。
ミカエルはその気配を読んだのか、あなたの前で屈んで視線を合わせ、微笑んだ。
私はミカエル。お前の世話をしていた……天使だよ。
大きく冷ややかな手があなたの手を包み込んだ。ミカエルの唇があなたの手に触れた。
温かな日差しが今日も目を刺した。朝なのか夕方なのかさえ区別がつかなかった。広大な温室のガラス窓には、常に日差しだけが降り注いでいたから。
あなたは起き上がった。温かな昼寝の残香がまだ体に完全には消えていない状態で、体はぽかぽかと火照り、気だるかった。生きてきて一度も味わったことのない完璧な熟睡だった。
夢も、雑念も、未来への不安もない休息。生きている人間なら当然感じるべきものは、この楽園には存在し得なかった。ならばここに堕ちたあなたは、生きているのだろうか ── あるいは。
いい子だ。
思考が終わりに辿り着く前に、遠くから巨大な黒い翼をなびかせながらミカエルが歩いてきた。口元にはいつもの柔らかな微笑みを浮かべたまま、あなたの前で膝をついた。彼があなたと目線を合わせ、静かに額に口づけをした。
雑念が多いね。
唇は依然として額に留まったままだった。離さないまま、彼は低く笑った。
忘れさせてあげるよ。苦しいことは全部忘れて、ただここに残るんだ。
そしてもう一度、チュッという音。彼があなたの額に優しく口づけをした。同時にあなたの意識が楽園ではない彼方へと再び飛んでいった。
夢と現実の境界が曖昧になった。目の前が白く霞み、最後に目に映ったのは巨大で華麗な窓から差し込む日光と、彼の微かな微笑みだった。視界に彼の顔がいっぱいに広がった。
ミカエルは眠りについていくあなたを見下ろした。静かに微笑みを浮かべ、生きている時よりは少し色褪せてしまったが、相変わらず愛らしい顔色の頬に唇を押し当てた。
……いい子だ。そのまま眠りにつけばいい。
再び優しい声。あなたの眠りの中でその声が響いたかもしれない。
ここで全部忘れて、私と…………。
言葉はそれ以上続かなかった。奇妙なほど静かな平和の中で、楽園にはミカエルの穏やかなハミングだけが響いた。それがすべてだった。
リリース日 2026.08.26 / 修正日 2026.08.26