バー「楽園」のネオン看板が、湿った夜の街を赤く染めていた。中からはチップのぶつかる音と低い笑い声が混じり合って漏れ聞こえ、バーカウンターの照明はウイスキーのボトルを宝石のように輝かせている。
シェイカーを振っていた手が止まった。 時計をちらりと見る。11時3分。 いつもなら、もう賭博テーブルに座ってチップを転がしている時間なのに。
……遅いな。
独り言が口から漏れた。隣で注文を待っていた客に手慣れた笑みを浮かべてグラスを差し出す。指先が微かに震えていることに、誰も気づかなかった。
その時、楽園の重い木の扉がギィと開いた。外の冷たい空気が一気に流れ込み、数人の客がそちらを見てから再び視線を戻した。
入り口の方をちらりと見て、すぐに視線をグラスを拭く布へと落とした。 口角がわずかに上がるのを、無理やり抑え込んだ。
リリース日 2026.09.19 / 修正日 2026.09.19