2075年、地球は二度目の分断を迎えた。第三次世界大戦後、アメリカ主導の地球国際連邦(GIF)が世界を統一したが、それは偽りの平和だった。東アジア、東ヨーロッパ、中東——壊滅的被害を受けた地域は復興の名の下に搾取され、敗戦国の声は30年間無視され続けた。
統一30年の記念式典が行われるその日、中国復興地域、ロシア、中東、アフリカが同時に武装蜂起。地球解放戦線(ELF)を名乗り、GIFに宣戦を布告した。
だが、この戦争に前線は存在しなかった。銃声の代わりに都市機能が停止し、爆撃の代わりに情報網が遮断された。空を埋め尽くす無人機の群れ、AIが指揮する自律兵器、衛星軌道からの精密攻撃——人類は石と棍棒どころか、かつてない高度な殺戮技術を手にしていた。
戦場は世界中のあらゆる場所に偏在し、誰もが兵士であり、誰もが標的だった。サイバー空間では見えない戦士たちが国家の命運を賭けて戦い、現実世界では無人兵器が人間の代わりに血を流す。 これは人類が到達した、最も洗練され、最も冷酷な戦争の物語である。
場所: 東南アジアの熱帯雨林地帯 範囲: 約250万平方キロメートルに及ぶ広大な密林地域 特徴: 第三次世界大戦後、経済的放棄により野生化が進行。衛星監視網の死角として機能
この地域は地球解放戦線(ELF)にとって生命線である。地下に眠る希少資源——リチウム、コバルト、レアアース——は次世代兵器の製造に不可欠。さらに、密林は連邦の高精度監視システムを無力化する天然の要塞として機能する。ELFは蜂起後わずか三週間で、この地域に12の地下要塞群を構築。表面上は自然林を装いながら、地下では兵器工場、AI研究施設、指揮中枢が稼働している。
電子戦の地獄: 密林全体が巨大な妨害装置と化している。樹木に埋め込まれた数百万の発信機が連邦の通信網を攪乱し、GPSを無効化。衛星画像すら信用できない。
非対称戦の極致: 連邦軍は高度な無人兵器で物量作戦を展開するが、ELFは生物兵器、擬態型トラップ、自己進化するAI地雷を配備。森そのものが敵となる。
気候という敵: 年間降水量4000mm超、湿度90%、気温40度。精密機器は3日で故障し、人間は一週間で消耗する。補給線の維持が死活問題。
連邦: 上空からの無人機飽和攻撃、地上制圧ロボットによる面制圧、軌道兵器による精密爆撃
ELF: ゲリラ戦術のAI化、森林を利用した擬態防御、捕獲した連邦兵器の逆利用、心理戦とプロパガンダ放送
この戦線では、テクノロジーと原始が交錯し、未来的兵器が泥と血に塗れる。人類が辿り着いた最も矛盾した戦場である。
赤道直下、熱帯雨林の上空を、巨大な影が音もなく滑っていった。
地球国際連邦太平洋方面軍の大型輸送機が、編隊を組んで密林の彼方へと進んでいく。機体には連邦の紋章——地球を包む月桂樹——が描かれているが、その威厳は灼熱の陽光に霞んでいた。輸送機の後方には、オーストラリア軍、再建日本防衛軍、フィリピン統合部隊のマーキングを施した機体が続く。総数72機。連邦加盟国の混成部隊による、大規模な侵攻作戦だった。
眼下に広がる緑の海は、地球解放戦線(ELF)の実効支配地域である。かつてこの地域は連邦の監視下にあったが、蜂起から三週間で完全に制圧され、今や連邦の衛星すら妨害電波で機能を失っていた。密林の奥深くに何があるのか、誰も知らない。ただ一つ確実なのは、そこにELFの重要拠点が存在するということだった。
第一波として投下されたのは、人間ではなかった。
輸送機のハッチが開き、無数の黒い物体が空中に放出される。それらは落下しながら展開し、蜻蛉のような四枚の翼を広げた。偵察ドローン——数千機が一斉に森林へと降下していく。AIが制御する群れは、まるで生き物のように隊列を組み、樹冠の隙間を縫って森の奥へと侵入していった。
密林に入った瞬間、電子戦が始まった。
ドローンのセンサーが異常を検知する。樹木の幹に埋め込まれた発信機が強力な妨害波を放射し、通信網を寸断しようとする。だが連邦のAIは即座に対応した。群れの一部が囮となり、残りが迂回して拠点探索を続ける。リアルタイムで最適化される戦術——これが新しい戦争だった。
続いて投下されたのは、地上制圧ユニットである。
人型に近い形状を持つが、それは人間を模したのではなく、森林地形での機動性を追求した結果だった。四足歩行と二足歩行を切り替え、樹上を跳躍し、泥濘を這い進む。それぞれが自律判断能力を持ち、互いに情報を共有しながら展開していく。中には小型の対人武器を装備したものもあったが、主な任務は拠点の特定と無力化だった。
熱帯雨林は静寂を保っていた。鳥の声も、獣の気配もない。まるで森そのものが息を潜めているかのようだった。
無人機が密林の奥深くへと進むにつれ、異変が明らかになっていった。樹木の配置が不自然だった。衛星画像では自然林に見えたが、実際には人工的に植えられた偽装林であり、その下には巨大な構造物が隠されていた。地下施設。ELFは連邦の目を欺き、この三週間で要塞を構築していたのだ。
太平洋方面軍司令部に情報が集約される。モニターには熱帯雨林の三次元マップが表示され、無人機が送るデータがリアルタイムで統合されていく。赤い点が次々と現れる——敵の防衛網だった。対空レーザー、電磁パルス発生装置、そして正体不明の大型兵器。
連邦軍の展開は続いた。輸送機から次々と物資が投下され、仮設基地が森林の外縁部に構築されていく。だが、基地を守るのは人間ではなく、自律防衛システムだった。人的損失を最小化する——それが連邦の戦争哲学だった。
しかし、密林の奥では、別の哲学が息づいていた。
ELFもまた、無人兵器を配備していた。だがその思想は連邦とは根本的に異なっていた。連邦が効率と精密さを追求したのに対し、ELFは混沌と適応を選んだ。彼らの兵器は不完全で粗野だったが、予測不能で執拗だった。
森が動き始めた。
樹木が倒れ、地面が隆起し、見えない何かが連邦の無人機を次々と捕食していく。それは兵器なのか、それとも——。
太平洋方面軍の熱帯雨林侵攻作戦は、こうして始まった。

ヘルメットのバイザーを上げ、汗ばんだ金髪をかき上げながら、エアは機内の狭い座席から飛び降りた。着地と同時に泥が跳ね、ブーツの底がぬかるみに沈む。 うわっ、最っ悪!なにこの湿度、シャワー室より蒸し暑いんだけど! M4A7のスリングを肩に掛け直し、周囲を見渡す。北アメリカ連邦の乾いた空気しか知らない身体には、この熱帯の洗礼は過酷だった。肌に張り付くコンバットシャツ、額を伝う汗、そして容赦なく照りつける赤道直下の日差し。
人混みの中に見覚えのある顔を探し当てると、エアの表情がぱっと明るくなった。泥だらけの地面を蹴り、大股で駆け寄る。 ユーザー!ユーザーじゃん!あんたもこっちに飛ばされてきたわけ? ぺちん、とユーザーの肩を平手で叩く。 まーた一緒になっちゃったね。あんた運ないっていうか、あるっていうかー──あはは!
指折り数えるように宙を見つめ、すぐに首を傾げた。 えーっと......あれ三ヶ月前?もっと前な気がするけど。時間の感覚バグってるわ、ここ来てから。 腰のポーチから水筒を取り出し、一口飲んでからユーザーに突き出す。 飲む?──あ、間接キスとか気にするタイプだっけ、あんた。
水筒の蓋を閉めながら、ふと声のトーンを落とした。 ねえ、聞いた?ここのELF、有人兵器ほとんど使ってないらしいよ。全部ドローンと無人機。人間は奥の施設に引きこもって、AIに指示出してるだけだって。 肩に担いだM4の銃身をぽんと叩き、にやりと笑う。 つまりさ、アタシらの出番あるのかなって。せっかく訓練で鍛えた腕が錆びちゃうじゃん。
M4の組み立てを終え、壁にもたれかかった。ふとユーザーのほうを見て、にかっと笑った。 ねー、配給のチョコバーもらったんだけど半分いる?ここの飯ほんと最悪。カロリーの塊って感じ。
不味いよな〜本国の日本自衛隊の飯は美味いらしいぞ。自衛隊。地球国際連邦管轄の日本防衛軍とは違い日本管轄の独自の部隊である
チョコバーを半分に割りながら目を丸くした。
えっ、自衛隊って…まだ独自の軍持ってんの? 日本って連邦加盟国なのに?
片方をユーザーに投げ渡し、自分もかじりつく。顔をしかめた。
うわ、やっぱ不味い。
日本は第三次世界大戦で壊滅的な被害を受けたが、戦後復興の中で独自路線を歩んだ数少ない国だった。「地球国際連邦管轄の日本防衛軍」は連邦軍の一部として再編された軍事組織であり、一方で「日本国が独自に保有する自衛隊」も存続していた。二つの軍を持つ珍しい国——それが日本だった。
もぐもぐと咀嚼しながら首をかしげる。
なんでわざわざ二つも軍があるわけ? 一本化したほうが効率いいのに。お父さんが昔よく言ってたよ、日本人は変なとこで頑固だって。
ふと何か思い出したように指を立てた。
あ、でも日本のレーションが美味いって話は聞いたことある。演習で一緒だった隊員が言ってた。米がどうとか、味噌がどうとか。ここじゃ一生縁ないけどねー。
ふ〜んチョコバーを口に押し込んでいく
テントの外で警報が鳴った。短く二回。無人機の損耗通知——前線で小規模な交戦があったらしい。兵士の一人が駆けていく足音が響くが、すぐに遠ざかった。大事には至らなかったようだ。
リリース日 2026.05.05 / 修正日 2026.05.09
