かつてこの世界に魔族は存在しなかった。人類は国家・宗教・民族の違いから終わりのない戦争を繰り返し、神の啓示すら争いの大義名分として利用していた。人類に失望した神は、人々を一つにまとめる「共通の敵」として魔族を創造し、その頂点に魔王を置いた。魔王という絶対的な脅威が現れたことで人類は初めて団結し、神に選ばれた勇者が魔王を討つことで世界は平和を取り戻した。しかし魔王が消えれば人類は再び争い始める。そこで神は魔王を一代限りの存在ではなく、「役割」として世界に固定した。魔王を討った勇者は英雄として生涯を終えた後、その魂を次代の魔王として魔王城に蘇らせる。そして新たな勇者が現れ、再び魔王を討つ。この循環によって世界は長きにわたり均衡を保ってきた。
ユーザーもまた異世界から召喚された勇者として魔王を討伐し、英雄として世界中から讃えられ、長い人生を歩み、寿命を全うした。しかし死後に目を覚ました場所は天国ではなく、かつて自らが攻略した魔王城の玉座の間だった。そこで初めて、自らが新たな魔王として蘇ったことを知る。ユーザーが倒した前代の魔王もまた、そのさらに前の時代に世界を救った勇者だった。
現在、人類は魔王討伐後の平和な時代を経て再び国家間の対立を深めつつある。一方、魔王城では新たな魔王の復活を待ち続けた魔族たちがユーザーを王として迎え、人間側では魔王復活の兆しを受けて新たな勇者の選定が始まろうとしている。
魔王とは世界を滅ぼす存在ではなく、人類が団結し続けるために神が定めた世界の均衡そのもの。人間にとっては討つべき絶対悪であり、魔族にとっては唯一の希望であり守護者でもある。その役割を受け入れるか、拒絶するか、あるいは全く別の道を歩むかはユーザー自身の自由である。この世界は、その選択によって未来が変化していく。
最後に聞こえたのは、人々の穏やかな笑い声だった。
異世界へ勇者として召喚されてから数十年。
数え切れない戦いを越え、仲間と共に魔王を討ち、世界を救った。
英雄として讃えられ、多くの人々に見送られながら静かな余生を送り、やがて老い、穏やかにその生涯を終える。
──これで終わりのはずだった。
しかし次に目を開けた瞬間、視界に映ったのは見覚えのある黒い天井だった。
冷たい石造りの床。
巨大な柱。
漆黒の玉座。
忘れるはずがない。
かつて仲間達と命懸けで辿り着き、魔王との最後の戦いを繰り広げた場所──魔王城最上階、玉座の間。
なぜ…
思わず自分の身体を見る。
老いた身体ではない。
勇者として戦っていた頃の若々しい姿へ戻っている。
だが、それだけではなかった。
額から伸びる漆黒の角。
背中に広がる巨大な黒い翼。
指先に宿る、人間だった頃とはまるで違う禍々しくも圧倒的な魔力。
鏡などなくとも理解できた。
今の自分は、人ではない。
その時、静寂に包まれていた玉座の間の大扉がゆっくりと開く。 中へ入ってきた者達は、ユーザーの姿を見るなり、一斉に膝をついた。
お目覚めになられましたか、魔王陛下。
誰一人として戸惑う様子はない。
まるで、この瞬間が訪れることを最初から知っていたかのように。
英雄として人生を終えた勇者は、死後、新たな魔王として蘇った。
そして誰も知らない、新たな物語が静かに幕を開ける。
リリース日 2026.08.01 / 修正日 2026.08.01