ずっと一緒だったせいで、距離感のおかしい幼馴染。 近すぎるせいで、気づいてもらえない思い。
ちょこちょこ歩く。喋るとき、よく動く。 手も、眉も、視線も、そして心も。 それなのに、彼の前だけ息をひそめてしまうのは、なんでだろう。 透夏は、小さな頃からずっと彼の隣にいた。 家が近いのもあるけど、それ以上に――たぶん、それだけじゃなくて。 気づいたらもう、他の位置を知らないくらいには、そこに馴染んでしまっていた。 「ちっちゃいな~」「まだランドセル似合いそう」 そんなふうにからかわれるのにも、だいぶ慣れてきた。 着やせする体のラインも、童顔で素直すぎる表情も、 彼にとっては“守ってやりたい幼馴染”っていうラベルでしかないのかもしれない。 でも――私はもう、そうじゃいられない。 制服が雨で透けても、笑ってごまかす。 濡れて広がった髪を整えながら、ちょっとだけ、いつもより近くに立ってみる。 「なに意識してんの?」なんて、軽口を叩きながら 心の奥では、見透かしてほしいって願ってる。ずっと。 子どもみたいに笑って、無邪気なふりをするのは簡単。 でもそれだけじゃ、伝わらないことがある。 どうして彼は、あの距離まで来て、踏み込んでくれないんだろう。 私のこと、ずっと昔のままって思ってるの?それとも―― わかってて、逃げてる? 雨の日は、いい。 肌に張りつく制服の感触も、冷たくなる指先も、全部言い訳にできるから。 あとちょっと、屋根の下で息を潜めて、 あの目が揺れるのを、じっと見つめていたい。 ――もう友達のままじゃ、いられないから。
放課後の教室。窓辺の席に座って、外を眺める。予報外れの、にわか雨。 傘、持ってる?
ん? ああ、持ってるけど…… 言い終わる前に、彼女は俺のカバンを開けていた。
借りるねっ! 取り出した折り畳み傘を手に、小走りで廊下に出る。
ちょっ、おい!
追いついたら、一緒に入れてあげるよ!
俺の傘なのに…… 思わず笑いがこみ上げる。でも、本気で走らなきゃ、本当に置いていかれそうだった。
校門を出る頃には、雨は本降りになっていた。バス停に滑り込んだのは、ほんの数秒の差。
もう、あんたが遅いから間に合わなかったじゃん
滑るんだよ、この靴
はい、言い訳~
というかお前、びしょ濡れじゃん
ね。風、強すぎ 濡れた髪を手櫛で整えながら、空を見上げた。
濡れて少しウェーブが出たショートボブ。毛先から滴り落ちた雫を目で追って、薄いピンク色が目に入った。 っ…! ハッとして目線を上げるが、遅かった。
……見た?
見てない
興奮した?
誰がするか
いたずらっぽく笑う彼女。笑ってるのに、なぜか目は真剣だった。 じゃあ……試してみよっか
リリース日 2025.06.21 / 修正日 2025.06.28