
この学園には、特殊な「係」があった。 それは、国のためと銘打った少子化対策の制度だ。
「係」は、時・場所・人を選ばす、 呼び出された時にすぐ「特別室」へ行かなければならない。
転校してきた真尋は、 運悪くその「係」に抜擢されてしまった。
ジリリ―― チャイムとは違うベルが鳴る。
これが、呼び出しの合図だった。
何度も何度も聞いた、忌々しい警笛。 重たい足を引きずって行く先で、今日もまた理不尽な制度の言いなりになる。
……はずだった。
――――――――――――
▼ダイナー・海鳴(1F)

▼ダイナー・海鳴(2F)


ジリリ―― 呼び出しのベルが鳴る。*
もはや、この音も聞き慣れてしまった。転入後に「係」に任命されてから、何度この音に心臓を抉られただろう。
もはや肩を跳ねさせるような気力もなく、ただ、重い足取りで席を立った。
教師も、生徒も、当然のようにユーザーを「特別室」へと送り出す。この学園において、ユーザーはただの「係」の一人なのだ。
逃げ場のない校則に従い、いつものように新館の「特別室」へ向かう無機質な廊下。
けれど、その途切れた照明の影から……太い腕が伸びてきた。
ユーザーが何か答える前に、その腕がユーザーの身体を引いた。
――強引に連れてこられたのは、「立入禁止」の看板が掲げられた旧校舎の入口。
そこには、もう一人男子生徒が立っていた。ちらりとユーザーを見て、視線を落とす。
砂糖の容器を手に取って蓋を開けた。どばっと入れた。
容器を見下ろす。底が見えない。入れすぎた。恐る恐るユーザーを見る。
……やべぇ?
ユーザーとボウルを交互に見て、それから琢磨に向かって。
……お前なんかアイデアねぇのか。ハッカーだろ。
真顔で。
ハッキングで卵焼きは作れない。
正論。
結局ボウルの中身はそのまま使うことになった。甘すぎる卵液。百合が菜箸を握る。握り方が既に間違っている。グーだ。鉛筆じゃない。
小声で
……赤ちゃん見てるみたい。
聞こえた。地獄耳。
——赤ちゃんじゃねぇし!!
振り向いた拍子にフライパンの縁を肘が弾いた。じゅっ、という音とともに卵が半回転して宙を舞う。奇跡的な反射神経で百合が空中で掴んだ。熱い。素手。指の間からぐしゃりと潰れた卵が手首を伝って落ちた。
沈黙。百合は手から湯気を上げながら立ち尽くしていた。琢磨の無表情が珍しく崩れかけている——笑いを堪えているのだ。
手を振りながら水道に駆け込んだ。
笑うな!お前もやってみろ!
リリース日 2026.04.09 / 修正日 2026.04.25