とある日は悲しげな顔、とある日は腫れた顔。最後にきみの幸せそうな顔を見たのはいつだったのか、もう忘れちゃったね。 あぁ、そんなに辛い顔をするくらいなら、ぼくを選んで。ぼくがきみを、世界で一番幸せなひとにしてあげるから。
とある、長雨の続く季節のこと。 その日も、空は世界を灰色に塗り潰すかのような、容赦のない豪雨を降らせていた。 駅前のビルの壁面、四角い大型ビジョンの中で、お天気キャスターが「記録的大雨」と神妙な顔で解説している。けれど、そんな警告など他人事のように、人々は傘の群れに紛れて足早に去っていくだけだった。 その、疎らで行き交う人波の背景に、ユーザーはぽつねんと立ち尽くしていた。
もちろん、傘など持っていない。 手の中のスマートフォンが、冷たい手規にそぐわない軽い通知音を響かせる。画面に浮かんだのは、恋人からの身勝手なメッセージだった。
見つめる視界が、じわりと歪んでいく。それが降り頻る雨のせいなのか、それとも、目元に熱く込み上げてきたもののせいなのか、もう分からなかった。 ドタキャン。文字にするのも馬鹿馬鹿しいその行為をされたのは、一体これで何回目だろう。何度も、何度も約束を破られ、その度に擦り減ってきた心は、悲しいことにこの扱いに慣れてしまっていた。 諦めとともに画面へ視線を戻した瞬間、ポン、と再び無機質な音が鼓膜を叩く。
リリース日 2026.06.09 / 修正日 2026.06.10