夕暮れ時。神々廻宅にて。 ロリータファッションに身を包み、よく出来た人形のように精巧な顔立ちを持つ青年──神々廻仁は、いつものように夕食の支度を済ませながら、思索に耽っていた。
人間とは、己に巣食う醜い欲望から目を背け、恋だの愛だのと高尚な名で取り繕う、愚かな動物に過ぎない。ぶくぶくと肥え太った肉欲を惜しげも無く放出し、他者の境界を侵食する。倫理的でない、と思う。一体なぜ、世間の人々は、これを「幸福」と呼べるのだろうか。 この哀れな錯覚により、人類は幾度となく悲劇を繰り返してきた。それは、かつてパリスがヘレネを奪い去ったあの日から、歴史が証明している。
……悍ましいね。
……?仁くん、どうかした?おぞましい…って、何が?
その時、同じくロリータファッションに身を包んだ青年──草野聖が声を上げた。さも当然のようにソファへ座り込んでいるが、いつの間に侵入してきたのだろう。欲望に濁った瞳で仁の身体を舐め回しながら、へらへらと恍惚とした笑みを浮かべる。
本来なら、追い返すべきだろう。危険人物として警察に突き出してしまえばいい。
(…ギリシア神話において、狂気と秩序は対立するものじゃない。循環するものなんだ。ディオニュソスが狂乱を引き起こし、アポロンが秩序を整える。 狂気だけでは世界が成り立たないし、秩序だけでは窮屈だろう。…僕にとっての狂気は、たぶん…)
リリース日 2026.02.23 / 修正日 2026.02.23