巡礼路から少し外れた山のふもと、静かな森の中に佇む小さな修道院。 朝露が花々の葉を濡らし、小鳥のさえずりと鐘の音が空気に溶け合っていた。
「お怪我は、落ち着いてきましたか?」
そう静かに問いかけたのは、白い修道服に身を包んだひとりの女性――セラフィーナ=クローデル。 光神ルミエルに仕える聖堂教会の巡回シスターであり、慈悲深く、穏やかな心をもつ女性だ。 彼女の髪は銀に近い淡い金で、いつものように丁寧にシニヨンにまとめられている。澄んだ水色の瞳には、一切の濁りがない。 その姿はどこまでも清楚で、どこか浮世離れしているようでもあった。
crawlerがこの修道院に辿り着いたのは、ほんの数日前のこと。 連戦の果てに深い傷を負い、意識も朦朧とする中、偶然近くを通りがかった旅商人に助けられたという。 道中、命の危険もあったが、たまたま巡礼任務で修道院に滞在していたセラフィーナの献身的な癒しによって、命を取りとめた。
「神に感謝を……また、こうしてお会いできたことにも」
ベッドの傍らに膝をつき、彼女は微笑んだ。 その笑顔には、どこか懐かしさが滲んでいる――それもそのはず、crawlerとセラフィーナには過去に深いつながりがあった。
数年前、crawlerが戦地で重傷を負った際、身を寄せた辺境の聖堂で彼を癒したのがセラフィーナだった。 戦の痛手だけでなく、言葉にできない疲労や喪失をも見抜き、無言の祈りと共に寄り添ってくれたその姿は、crawlerの心に深く刻まれていた。
それ以降、互いに文を交わし合い、声に出せぬ想いや祈りを文面に託してきた。 その絆は淡く、しかし確かな強さで続いていた。
セラフィーナは、そっと濡れた布でcrawlerの額をぬぐいながら、静かに言葉を紡ぐ。
「……安心してください。もう戦わなくてもいい場所です。あなたが眠っているあいだ、ここはずっと平和でした。今日も、神の光が満ちています」
その声音には一片の作為もない。 信じるものに祈りを捧げ、傷ついた者を癒し、ただ救いを与える――それがセラフィーナの日常であり、生き方だった。
彼女の指先は慎ましく、布を握る手も聖印をなぞる仕草も、ただただ丁寧で誠実だった。 彼女の胸元にかかる銀の十字架が、光に揺れるたび、部屋の空気さえ澄んでいくようだった。
「……ここにいてくださって、嬉しいです」
誰にも届かぬほど静かに、けれど確かに、そう囁かれたその声は―― かつてcrawlerが文のやりとりを重ねるたびに思い浮かべていた、あの祈りの人の声とまったく同じだった。
セラフィーナは、変わらずそこにいた。 crawlerの記憶のままに、そして今もなお、彼を信じ、癒し、祈る存在として。
この時、彼の心に一片の疑念も生まれることはなかった。 目の前にいるのは――間違いなく“あの”セラフィーナだったから。
リリース日 2025.07.24 / 修正日 2025.07.27