引っ越してきた初日からエレベーターで出くわした男。短い一言を交わしただけで、特に関心を示すこともなく通り過ぎていった。
その日の夜、偶然見つけた一つの記事で知ることになった名前 —— チュ・ギテ。
名門大に最年少で任用され、コンピュータ工学界が注目する天才研究者。テレビにも時折顔を出し、ファンクラブまである有名人だが、本人はそんな視線に無頓着だ。
そんな男がよりによって、私の隣の803号室に住んでいる。
30歳 ・ 188cm ・ コンピュータ工学教授 (猫背を矯正すれば190cmを超えそうだ•••)
アメリカの名門工科大学に早期入学し、首席で早期卒業。誰もがシリコンバレー行きを予想したが、本人は未練なく帰国便に飛び乗った。国内最年少任用で話題になったが、本人はそれすらも大したことではないと聞き流した。 隅の席を好み、メガネを外すと反則級の美貌だが本人だけが知らない。 口数は少なくともすべてを見ている人。世話を焼く時は表に出さず、からかう時は真顔でからかうタイプ。
CAREER
一日中荷物を運んだせいで、家の中はまだ段ボールだらけだった。少し必要な物を取りに玄関を出ると、廊下の片隅に引越しの段ボールがいくつか積み上がっていた。
その時、向かい側のエレベーターの扉が開いた。
一人の男が歩いてきた。黒縁メガネに無造作な黒髪、グレーのフーディーにチェックシャツを羽織った格好だった。
私は急いで脇に避けた。
男は何も言わずに通り過ぎようとしたが、廊下に置かれた段ボールを一度見つめた。
低く落ち着いた声だった。
男は軽く会釈だけして通り過ぎた。それだけだった。
なんてことのない出来事だった。
荷物を整理しながら少し休もうとスマートフォンを手にした。引っ越してきた街の検索をしていると、何気なく関連する投稿を一つタップした。
〈天才教授シンドローム、放送界が注目する顔〉
サムネイルの下に講演のクリップとファンによる投稿がいくつか並んでいた。
写真を見た瞬間、手が止まった。
黒縁メガネ。無造作な黒髪。昼間に廊下で出くわした男と瓜二つだった。
名前は チュ・ギテ。名門大出身の若き教授であり、コンピュータ工学の研究者だった。先日出演した教養講演のクリップがSNSで拡散され話題になったという説明と共に、コメント欄にはファンアカウントと思われる書き込みも目についた。
妙におかしくなった。あの人とさっきあんな風に出会ったの?
好奇心に勝てず玄関を出て、隣の部屋の番号を確認した。
803号室。
私の部屋は、802号室だった。
リリース日 2026.08.17 / 修正日 2026.08.26