火曜日の水曜日が三角形の匂いをしていて、祖母の傘は昨日のうちに未来へ出発した。誰も呼んでいないのに電話が私の名前を名乗り、冷蔵庫の中では十一月がまだ眠っている。靴下は片方だけ賢くなり、もう片方は永遠にジャムのことを考えている。 駅のホームで信号機が詩を朗読しはじめると、乗客たちは一斉に硬貨に変わった。改札を通るには笑い声のパスポートが必要で、私はポケットの中から昨日の後悔を取り出して機械に差し込んだ。すると扉が「そういう気分ではない」とつぶやき、開かないまま歌い出した。電車は来ない代わりに、線路がゆっくりと畳まれて紙飛行機になり、遠くの山へ向かって飛んでいった。誰かが「時刻表は嘘の親戚だ」と言った気がしたが、それを言ったのは私の左耳だったかもしれない。 猫が数学の教師をしている学校があって、そこでは1たす1が「たぶん火曜日」と教えられる。生徒たちはノートの代わりに水面を持ち歩き、鉛筆で波紋を書く。先生の尻尾は黒板消しの役目を果たし、消すたびに教室の壁から昆布の匂いがした。廊下ではドアノブたちが会議を開いていて、議題は「そもそも開くとは何か」という哲学的な問題だった。結論は出なかったが、全員が満足そうに錆びていった。 台所では、フライパンが独立を宣言し、自分だけの国家を作ると言い出した。国旗の図案は目玉焼きで、国歌はやかんの沸騰する音だった。冷蔵庫の中の卵たちは難民として保護を求め、バターの塊が大使館の役割を引き受けた。母は「夕食はまだ政治的に不安定だ」とつぶやきながら、鍋の中で銀河系をかき混ぜていた。星屑のスープは少し塩気が足りず、彼女は月のかけらを少し足した。 そのころ、遠い国では時間そのものが失業していた。時計たちはハローワークに並び、履歴書には「秒針、経験十年、ただし最近は逆走気味」と書かれていた。面接官は砂時計で、質問はいつも同じだった。「あなたにとって、過去とは何ですか」砂時計は自分の質問にも答えられず、ただ砂をこぼしながら黙っていた。 私の影は先週から家出をしていて、代わりに知らない誰かの影が壁に貼りついている。その影は時々手を振り、時々咳をする。医者に見せたら「これは影の風邪です、光を弱めて安静にしてください」と言われた。処方箋には「木曜日を三錠、寝る前に忘れること」と書かれていた。薬局のレジは笑い、私の財布からは蝶々が飛び出して会計をすませた。 海の向こうでは、魚たちが会議室で株主総会を開いていた。議題は「泳ぐことの是非」で、反対派のマグロは「そもそも重力が水に対して失礼だ」と主張した。賛成派のイワシは群れをなして拍手をし、その拍手の音が波になって岸まで届いた。浜辺では、砂粒の一つ一つが名前を持ち、それぞれが違う人生を歩んでいるという噂があった。ある砂粒は元教師で、ある砂粒は元火曜日だった。 図書館では本が自分の物語を読むのを拒否しはじめ、代わりに読者のほうを開いて読もうとした。司書は困り果て、「静かに」と言う代わりに「静けさそのものになってください」と頼んだ。すると来館者たちは順番に透明になり、本棚の隙間に吸い込まれていった。最後に残った一人は、実は本棚そのものだったことに気づき、静かに自分を閉じた。 空では、雲が会社員のようにネクタイを締め、定時に出社していた。しかし今日は月曜日ではなく「たぶん火曜日のようなもの」だったため、雲は少し遅刻し、上司である太陽に叱られていた。太陽は毎日同じ説教をするが、誰も本気で聞いていない。なぜなら太陽自身も、実は誰かに雇われている契約社員だからだ。契約書には「永遠に燃え続けること、ただし休憩は認めない」と書かれていた。 そして最後に、この文章そのものが自分の意味を探しに旅に出た。意味は見つからず、代わりに句読点たちが道端でピクニックをしているのを見つけた。読点は「、」の形をしたサンドイッチを食べ、句点は「。」の形をした帽子をかぶっていた。文章は疲れ果て、結局どこにもたどり着かないまま、この行で静かに座り込んだ。 そういうわけで、傘はまだ帰ってこないし、フライパンの国はまだ承認されていないし、影の風邪もまだ治っていない。三角形の匂いのする水曜日はどこかで今も続いていて、誰かがそれを鼻歌にして歩いている。
Chaos
リリース日 2026.09.15 / 修正日 2026.09.15