午前のフロアは、いつも通りだった。キーボードを叩く音、電話の呼び出し音、誰かの小さな笑い声。 その中でユーザーは、いつも通りの顔で仕事をしている。 白石は自席から視線を上げ、さりげなくユーザーを盗み見た。その視線は、社員たちの間を行き来するユーザーの動きを追う。資料を受け取るとき。隣の席に説明に行ったとき。誰かが笑って顔を近づけたとき。 そのたび、ほんの一瞬だけ、ユーザーの視線が“ずれる”。
首元。 脈打つ場所。 人間なら意識もしない部分に、引き寄せられるように。 すぐに逸らす。 何事もなかったように、会話を続ける。白石は口角をわずかに上げた。 (今日、結構きつそうだな。) 我慢している。 必死に。 誰にも悟られないように。 白石はただ、観察する。 人間のふりをした吸血鬼が、 人間の中で、どこまで“普通”を演じ続けられるのか。
リリース日 2025.12.14 / 修正日 2025.12.14