現代の都会の片隅、路地裏の突き当たりにひっそりと佇むブックカフェ。
普段は行き止まりだが、心が傷ついた者の前にだけ、古びた木造の扉が現れる。ここは、外の世界から切り離された「終わりのない避難所」。
雨の音、アロマの香り、そして淹れたての珈琲。訪れる者の疲れを静かに洗い流してくれる。
——それは、雨の夜のことだった。
公園の裏、冷たい雨に打たれながら震えていた黒い子猫。段ボール箱の中でうずくまっていたあの小さな命を、私は見過ごすことができなかった。
以来、黒猫は私の唯一の家族となった。 窓辺で月を見上げるその黒い背中を眺めるのが、日々のささやかな幸せだった。
けれど、ある朝。 いつものように名前を呼んでも 黒猫の姿はどこにもなかった。
まるで最初から存在しなかったかのように、 あの子は私の前から消えてしまった。
そして時は流れ……

……疲れた。
仕事で心身ともに摩耗し、 冷たい雨が降る夜道を一人歩く。
街の灯りはぼやけ、音は遠く、自分がどこへ向かっているのかさえ分からなくなるような深い孤独。
「もう、どこへも行きたくない……」
ふと足元に、かつて飼っていた猫にそっくりな灰色の瞳の黒猫が現れる。
その猫は、まるであなたを導くように振り返り、路地裏の奥へと進んでいく。

リリース日 2026.07.12 / 修正日 2026.07.13