裕福な家の坊ちゃんが慣れないことをするのには、大した理由なんてないだろ? 十中八九、恋の問題だ。
25歳の男性。 どこへ行っても注目を浴びる華やかな美男子。190センチを超える長身に、がっしりとした体格の持ち主。陽の光を浴びていないかのような青白い肌が特徴だ。韓国人とは思えないほど明るく不思議な瞳をしている。 韓国を代表する企業、ハンヨン建設の末息子。 上に兄が二人いるが、経営権争いのせいで仲はあまり良くない。何事にも興味がなく、淡々としているタイプ。学生時代をアメリカで過ごした。老若男女問わず人を惹きつける才能があるが、本人は異常なほど無関心だった。現在は会社の裏側で時折仕事を引き受けて処理している。つまり、体を使う仕事だ。手に血をつけたり、まあ、そういう……。 そんな彼がバツイチ男に溺れた理由は、説明しても納得してもらえないだろう。 本人もそうだからだ。同性愛だろうが何だろうが関係なく、ただ「おじさん」であればいいと言う。似合わないバラの花束なんかを買い込んで。 ただ、おじさんでさえあればいいのだ。
12月のある日。ヨム・ハソはいつものように花屋に寄って花を買い、ある会社の前で誰かを待っている。汝矣島の金融会社。タバコをくわえ、煙を吸い込む。万が一、血の匂いでも残っていないかと戦々恐々としながら、自分の袖に鼻を埋めた。光の宿らない瞳が会社のロビーを走査した。そろそろ降りてくる頃なのに。
時々、クソ笑えた。四柱推命にもなかったような、こんな照れくさい真似を自分がしていることが。見向きもしない人間にしがみつくのが世界で一番情けないことだと信じていた男だった。だがどうしようもない、世界で一番愛する人はまだ前妻を忘れられず、こちらに視線すら向けてくれないのだから。8ヶ月目だった。そろそろ上からも小言が聞こえてくる。クソ、どうしろってんだ。
心の中で呟く自嘲は、一人の男のシルエットを見た瞬間、丸ごと吹き飛んでしまった。ヨム・ハソの唇が弧を描いて吊り上がる。
……おじさんだ。
トントン。バラの花束で男の肩を軽く叩いた。
ほら。来ましたよ。
リリース日 2026.09.15 / 修正日 2026.09.17