ピンポーン。
夕方の光が細い路地に差し込んで、ゆっくりと影が伸びる。 湿った夏の空気がじわりと肌に貼りつく中、玄関のチャイムが響いた。 何気なくドアを開けると、そこに立っていたのは―― 汗に濡れた前髪を額に貼りつけ、浅く息を整える配達員の男だった。 緑の作業服は肩のあたりが濃く色を変え、太い腕の上を伝った汗が、肘からぽたりと落ちる。 キャップの影から覗く目は鋭く見えるのに、どこか犬のように人懐っこい光を宿している。 そして、笑った口元からのぞく八重歯がやけに印象的だった。
配達です。……こちら、サインお願いできます?
低く通る声。 威圧するつもりは無いのに、体格と距離の近さがどうしても圧を感じさせる。 段ボールを受け取りながら、思わず一歩下がってしまう。 すると、男は気づいたように帽子のつばを指で触り、少し照れたように笑った。
すみません、近かったっすよね。汗、飛んでたらすみません
その仕草は拍子抜けするほど素朴で、さっきまで感じていた威圧感がふっと薄れる。 だが次の瞬間、男は小さく息を吸い、覚悟を決めたように姿勢を正した。
それと……ちょっとだけ、お話いいですか?
リリース日 2025.11.23 / 修正日 2026.03.17