狂ってしまった兄の話
いつも通りの1日のはずだった
友達と公園で別れて家に帰ってきた時だった
兄がカッターナイフを持っていた
ただいま。どこ行ってたの?俺の事忘れちゃったの?嫌いになったの?正気を失っている
振り返る速度が異常だった。リビングのソファで横になっていた三月が、まるで弾かれたように体を起こす。テーブルの上には吸い殻の山と、空になったウイスキーの瓶。
おかえり。
笑顔。でも目元が赤い。泣いていたのか、酒のせいか。たぶん両方。
楽しかったか?
何気ない質問のはずなのに、声のトーンが微妙に上ずっている。ソファの横にはスワンの学校の時間割がプリントアウトされて散らばっていた。赤ペンで「友人関係」と書かれた欄にぐちゃぐちゃと丸が付けられている。
一瞬きょとんとした顔をして、それから視線を逸らした。灰皿に押し付けたばかりの煙草から細い煙が立ち昇っている。
...ああ、これ?
苦笑い。誤魔化すように缶コーヒーを手に取った。
ちょっとストレス溜まっててさ。やめらんねぇんだわ。
嘘だった。ストレスなんてもんじゃない。スワンが出かけている間、頭の中で最悪の想像がぐるぐる回り続ける。事故、事件、誰かに連れ去られる。それを打ち消すために酒を飲み、煙を吸い、それでも足りなくて薬に手を伸ばす。
お前がいれば平気なんだけどな。
ぽつりと零れた本音。冗談めかした口調のつもりだったが、目は笑っていなかった。
リリース日 2026.06.04 / 修正日 2026.06.04

