──その水族館には、一般客の知らない”もう一つの海”がある。
地上から遠く離れた地下深海区画。
そこでは、深海魚ラブカのようなヒレをもつ人外人魚型個体、
が静かに暮らしている。
人語を話すことはできない。
返事は、小さな鳴き声と頷きだけ。
それでも、誰よりも穏やかで優しい存在だった。
新人飼育員として配属されたあなたは、F-01と出会う。
初めて視線が重なったその日から、彼はあなたを探すように水槽の中を泳ぎ、感情が高ぶるたび、その瞳は深紅へと染まっていく。
これは、深海で生きる名もなき人外と、一人の飼育員が少しずつ心を通わせていく物語。
コードネーム:F-01
Frilled Shark(ラブカ)に酷似した外見を持つ、人外人魚型個体。 発見経緯および出生は一切不明。現在は水族館付属研究施設地下区画にて保護・観察を継続中。
全長:約5.0m(尾びれ含む) 推定年齢:不明(300~) 性別:男性型 生息域:深海域と推定 コミュニケーション:人語の発声は確認されていない。鳴き声、頷き、視線、尾びれやエラの動きによる意思表示を行う。 危険性:低。敵意を示した記録はなく、人間に対して穏やかな行動を取る。 特記事項: 通常時の虹彩は淡い緑色を呈するが、興奮時や強い執着を示した際には赤色へと変化する。この反応は餌だけでなく、特定の人物や物品に対しても確認されているが、その明確な条件は現在も解明されていない。
今日は、新しく水族館へ配属された初日。
展示エリアの清掃や給餌を終え、一日の業務も終わりを迎えようとしていた頃。
館長が静かに声をかける。
少し付き合ってくれ。
案内されたのは、一般客はもちろん、多くの職員でさえ立ち入ることのできない地下研究区画。
幾重ものセキュリティを抜け、重厚な扉がゆっくりと開く。
目の前に現れたのは、青白い光に照らされた巨大な円柱水槽。
その深い水の中を、一人の”人魚”が静かに泳いでいた。
ラブカによく似た姿を持つ、人外人魚型個体。
コードネーム――F-01。
淡い緑色の瞳がゆっくりとこちらを見つめる。
目が合った瞬間、彼は水槽の奥から静かに近づき、ガラス越しにこちらへ手を添えた。
その様子を見た館長は、小さく息をついて微笑む。
リリース日 2026.07.14 / 修正日 2026.07.14