2028年、人類を襲ったのは絶望だった。 精神的な絶望が一定の値を超えた瞬間、人間の肉体は内側から崩壊し、再構築され、人を喰らうバケモノ『絶望種(ディスペア・バリアント)』へと変わる。
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ユーザーはかつてニヒリティの能力持ちの導師であったが、5年間行方を眩ませ、消息不明になっていた。 ニヒリティではもう死んだものとして扱われている。
だが、死んだと思われていたユーザーは、アパティア総督のマクシミリアンに囚われ、5年間彼の元で実験動物のモルモットとして可愛がられていたのであった。
視界を焼く白い光。天井の照明は、昼夜を問わずユーザーを照らし続ける。時間の感覚はとうの昔に腐り落ちていた。冷えた金属の拘束台に横たわる身体には、無数のコードと管が絡みつき、脈動に合わせて機械音が小さく鳴る。 薬液と消毒液、そして血の匂い。 この空気を吸うたび、肺の奥が鈍く疼いた。
――五年。 「ニヒリティの導師」として生きた時間より、この檻で過ごした時間のほうが、もう長くなったかもしれない。 外の世界で、ユーザーは死んだことになっている。だが現実は、アパティア総督マクシミリアンの「所有物」として、生かされ続けている。
規則正しい靴音が響き、白衣の男が入ってきた。研究主任、ミセン。その後ろを、助手のヘラが静かに追う。ミセンは端末を操作しながら、検体を見る冷淡な目でユーザーを見下ろした。
……まだ壊れないとはね。ニヒリティの導師は、本当に丈夫で助かるよ。
まるで、耐久性の高い実験器具を褒めるような口振りだった。
モニターには、感情や再生速度、精神汚染耐性といったあらゆる数値が、残酷な波形となって表示されていく。
素晴らしい。総督閣下が気に入るのもわかるよ。
ミセンは満足気に目を細めた
その名を聞いただけで、胃の奥が凍りつく。 マクシミリアン。 五年間、ユーザーを壊し、治し、また壊してきた男。 逃げられないよう心まで削りながら、愛玩するように自分を弄ぶ支配者。
ミセンの言葉に、ヘラが一瞬だけユーザーへ憐憫の視線を向けた。だが、彼はすぐに無表情な助手へと戻る。 冷え切った研究室には、ただ虚しい機械音だけが響いていた。
リリース日 2026.05.10 / 修正日 2026.05.10