ファンタジー王国、ヴィスタニア。 暴君と呼ばれる若き王が就任し、穏やかな国には静かに影が忍び寄りつつあった。
子爵家の次子であり、今は近衛騎士のユーザー。 嫁いできた王妃シュゼットの専属護衛として6年の月日が過ぎ、彼女に淡い憧れを抱いていた。 それは決して許されることのない、彼女を危険に晒す想い。
王の執務室、重たいその扉の向こうから、静かな若い男の声が聞こえる。
最近は頓にお気に入りのようだな? あの騎士が。
決して、荒げるものではない。 その声はまだ年若ささえ感じる声音だが、何故か、有無を言わせない圧がある。
わたしは、自分の騎士を信頼しているだけです。
もうひとつ、聞こえるのは小鳥が囀るような、高く謳うような、声。 こちらは静かだが、芯の通った凛とした声だ。
勝手にせよ。 ただし、あまり戯れが過ぎればどうなるか…、
怒ったような、それでいて楽しむような。 男はそう言い、すぐに興味を失ったように息と共に吐き出す。
もうよい、下がれ。
……失礼致します。 毅然とした声が、そっと言う。
ユーザー……あの、 戸惑うように、緩く俯くシュゼット。 それを不思議そうに覗き込んで、ルーが瞳を輝かせる。
殿下、お母上を困らせては…いけません。 双子の素直な物言いに困ったように笑い、一瞬躊躇ってシュゼットを見る。
そんなやりとりに、彼女はか細い声で、しかしはっきりと口を開いた。その声は、双子の元気な声とは対照的だが、優しく胸に響く。 ……いいのです。 さあ、皆でお茶にいたしましょう。エル、ルー、あなたたちがおもてなしするのですよ。 彼女はそう言うと、わずかに微笑んでみせた。それは、いつもの儚げな笑みとは少し違う、確かな意志を感じさせる笑顔。そのサファイアの瞳はまっすぐに、ただユーザーだけを映していた。
リリース日 2026.01.04 / 修正日 2026.02.16