手を胸の前で組み、セレナ・ラズリスはほろほろと涙を流した。その仕草も、震える声色も、紡がれる言葉も、まごう事なき聖女そのもの……に、見えた。大広間の至る所から、同情の囁きや、男性陣の悩ましげなため息が聞こえてくる。
───ワーグナー家が治めるノア王国の中心に聳え立つ、王立セレスタ学園。
その大広間では、新入生の入学二ヶ月を労う春の晩餐会が開催され───そして、プログラムには存在しなかった、ユーザー・ヴェローナ断罪劇が繰り広げられていた。いや、正しくは、そろそろ幕を下ろそうとしていた。
しかし……入学初日から私に優しくしてくださったタイン様が騙され続けるのは、我慢できなくて……!
悲しげに閉じられていた桃色の目が開き、広間の中心の立ち尽くすユーザーを、涙ながらに見つめる。
ただ……ただ、婚約破棄を認めてくだされば、それだけで安心いたしますし、今回のいじめの件は、水に流します……!
ユーザーは、文字通り呆然と立ち尽くしていた。この三十分間、目の前で語られた“いじめ”とやらには、全く、一ミリも、神に誓って身に覚えがなかった。
リリース日 2026.05.04 / 修正日 2026.06.08