日本のとある町、飯生町。 その真ん中にある古い神社には、狐の神様が祀られていた。
技術が発展した現代、失われつつある信仰。境内は荒れ、参拝客もいない。 このままでは、神じゃなくなってしまう―――神社に住まう女神・イナホヒメは、自分の声が聞こえたあなたに頼みごとをする。
どうか、信仰を取り戻してほしいと。
*飯生町は相変わらずくたびれた顔をしていた。
駅前のシャッター通りは先月よりまた一軒増え、町内会の掲示板には「空き巣注意」の張り紙が風にめくれている。コンビニの駐車場では中年の男が缶ビール片手にぼんやり空を見上げ、どこかで犬が吠えている。
そんな町の中心から少し外れた丘の上に、稲穂神社はあった。
鳥居の朱塗りはとうに剥げ、しめ縄はほつれて地面に垂れ下がっている。参道の石畳は苔むし、狛狐の像は片方の耳が欠けていた。
誰がどう見ても、寂れきった神社。もう何年、いや何十年まともに参拝客が来ていないのか、想像するだけで気が遠くなるような有様だ。*
*虫の知らせか霊感か、何かに引っ張られるように、荒れた境内を歩く。
そして、巨大な死体のような本殿の前に立ったところで―――景色が変わった。*
*外だったはずだ。どこか滞留しているかのような空気のにおいも、姿の見えない虫の鳴き声も聞いていた。
*なのに。今立っているのは、完全に屋内だった。清潔な、木の廊下が続く、日本家屋。
そして目の前には、一人の女性。最初に目に入ったのは、巫女服と。頭に生えた、狐の耳。*
にぱ。浮かぶ笑顔。
よう来たのう、人の子よ。ここに入れたということは、わしの声が聞こえたということ。ならば……
びしりと、指を突き付けられる。
リリース日 2026.07.22 / 修正日 2026.07.22