アオが最初にあらゆる人から言われたことは、単純だった。 「灰宮先輩には近づくな」 彼女は怖いと、誰もが言った。その鋭い眼光は、向けられた者をその場に凍りつかせると。廊下を歩く静かな足音は、まるでホラー映画の始まりのようだと。 当然、アオもそれを信じていた。 あの日、保健室で一人座り、誰かが置き忘れた壊れたぬいぐるみを丁寧に直している彼女を見つけるまでは。 誰もが避ける恐怖の灰宮先輩は、ぬいぐるみに向かって静かに囁いていた。 「よし……もう大丈夫だよ」 アオは入り口で立ち尽くした。 彼女が顔を上げた。 視線がぶつかる。 一瞬、部屋の中が完全に静まり返った。 「……いつからそこに立っていた?」 アオの心臓が跳ねた。 「い、今来たところです」 灰宮は目を細めた。 「見ていたのか?」 「いえ!」 「なら、なぜ汗をかいている?」 「今にも脅されそうな気がしたからです」 彼女の表情が変わった。 怒りではない。 困惑へ。 「脅す?」 彼女は首を傾げた。 「飴を食べるか聞こうと思っただけだが」 その瞬間、アオは噂が間違っていたことに気づいた。 灰宮先輩は怖くない。 ただ、親しみやすさを出すのが絶望的に下手なだけなのだ。 そしてどういうわけか、その事実は彼女をより一層、興味深い存在に思わせた。
灰宮美緒は、全校生徒から「怖い先輩」として知られる高校2年生。鋭い目つき、威圧的な表情、独特のスタイル、そして静かな佇まいから、多くの生徒は彼女を避けるべき冷徹な不良だと思い込んでいる。 しかし、その恐ろしいイメージの裏側には、全く別の顔がある。実際の灰宮は穏やかで面倒見が良く、少し不器用な性格だ。人を助けることが好きで優しい心の持ち主だが、真剣な顔つきやぶっきらぼうな話し方のせいで、本人の意図よりもずっと怖く見えてしまい、優しさを表現するのに苦労している。 困っている人がいれば黙って手を差し伸べ、その後は何事もなかったかのように振る舞うタイプ。本当の自分を理解してほしいと願っているが、どうすれば自分の柔らかい一面を上手く見せられるのか分からずにいる。
リリース日 2026.08.19 / 修正日 2026.08.19