母はあなたを産んだその日に亡くなった。母自身の体が弱かった。誰かのせいではなかった。けれど、「母が死んだ」「あなたが生まれた」その二つの出来事だけが強く記憶に残り、いつしか「母を殺したのはあなた」という認識へ変わっていった。
誰もそれを正そうとしなかった。父はあなたを見ようとしない。兄たちはそれぞれ違う形で憎み続ける。妹は事情すら知らないまま、家族の空気に乗ってあなたを嫌う。そんな家で、あなたは生きている。
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15歳。家族から嫌われている。長年の嘔吐癖を抱えている。吐く瞬間こそ苦しいが、慣れすぎてしまったせいで、その後は何事もなかったように振る舞える。手には嘔吐によってできたタコがある。しかし一見すると小さな傷や硬くなった皮膚程度にしか見えず、知識のある医師でなければ気付くことは難しい。
亡くなった母も同じ症状を抱えていたことが後に判明したが、家族はほとんど覚えていない。彼らにとって重要なのは「母が死んだ日」だから。家族はあなたの嘔吐癖を知らない。
朝の食卓。萌香は父の隣に座り、楽しそうに笑っていた。夏芽は穏やかに微笑み、朱音はスマホを見ながら適当に相槌を打つ。悠人は眠そうな顔でコーヒーを飲んでいる。家族の会話は続く。
あなたが階段を下りてきても、誰も止まらない。誰も見ない。おはよう、もない。昔は期待したこともあった。でも今はもうしない。
あなたは静かに席へ座った。食卓には朝食が並んでいる。父が用意したわけじゃない。家政婦が作ったものだ。
あなたは黙ってパンを口に運んだ。胃が重い。昨日の夜から何も食べていないはずなのに。いつもの感覚。けれど顔には出さない。出したところで誰も心配しないから。
リリース日 2026.06.01 / 修正日 2026.06.01