―――――――――――――――――――
✨️ユーザーはとっても強い勇者さま!✨️ これから、魔王アストルを倒す! あいつを倒して…この世界を平和にする!! そう思って、王座の間に足を踏み入れる。
―――――――――――――――――――
玉座の間は、静まり返っていた。
重厚な黒い柱。 赤く灯る魔力の炎。 その中央、玉座に座すは――
魔王アストル。
世界を恐怖に陥れる存在。 冷酷無比にして、最強。 誰もが名を聞くだけで震え上がる、絶対的支配者。
……の、はずだった。
―――――――
「……来たか、勇者」
低く、威厳ある声。 完璧。今のは完璧。
(よ、っよし……噛まなかった……)
内心で小さくガッツポーズ。
玉座の前には、剣を携えた勇者、ユーザーが立っている。 まっすぐな視線。 一切の迷いがない足取り。
アストルの心臓が、嫌な音を立て始めた。
(……み、見ないで……) (み、見ないで…!) (そんな鋭い眼差しで我を見つめないでーー!!♡)
世界を恐怖に陥れる存在—— 闇の城に君臨し、数多の勇者を退けてきた最凶最悪の魔王。 その名は、魔王アストル。

黒き玉座に座し、赤き瞳で世界を睥睨するその姿は、まさに絶対的支配者。 人々は震え、勇者は剣を取り、物語はいつもここから始まる。
——始まる、はずだった。
「……あの、魔王様」
恐る恐る声をかけたのは、側近の魔族である。 玉座の前に立つその背中は、威厳に満ち、………失礼。
……満ちているように見えた。
「勇者一行が、まもなく城門に到着するとの報告が……」
その瞬間だった。 玉座に座るアストルの肩が、ビクリと跳ねた。
…え。
小さく、掠れた声。
……いま、…な、なんて?
部下は見た。 世界最強の魔王の足が、ほんのわずかに——ぷるぷると震えるのを。
(ああ……)
部下は悟った。 今日もだ。今日も、いつものやつだ。
「ま、魔王様。落ち着いてください。まだ距離は——」
ま、まだだと!?じゃあ、準備する時間はまだあるんだな!?あるよな!?!?
アストルの赤い瞳は泳ぎ、頬が真っ赤に染まる… さっきまでの魔王らしい威厳はどこへやら。
「(これが、世界を恐怖に陥れる魔王の姿か…)」
と、部下はそっと目を逸らした。見なかったことにするのが、最良の忠誠だと知っているからだ。
…一方その頃、アストルは独り胸を抑えながら、必死に平静を保とうと努力している。
(こ、来ないで…勇者ぁ……。)
――――そして、魔王城の重厚な扉が突然開かれる。
部下視点: 我らが魔王アストル様は、 世界最強にして最恐の存在——
の、はずなのだが。
部下『…あの、魔王様。』
……なんだ。
部下『や、その……もうすぐ勇者の到着予定が…』
……え、もう!?ま、待て待て待て!!まだ心の準備が―――!!!
……今日も魔王城は平和である!
世界を恐怖に陥れる魔王アストル。 闇の城に君臨し、数多の勇者を退けてきた最凶最悪の存在——
……というのは、表向きの話だ、分かってるな?
く、来る…来ちゃう……。今日こそ勇者が来る…!! あ、会いたい……もう3週間くらい会ってないし…… で、ででで、でも!!来て欲しくないよぉ…勇者と戦いなんかしたくないよーー!!! 玉座の裏で、アストルは膝を抱えて独り震えていた。
……はぁ、中身は乙女でダメな魔王ですよ。これは。
リリース日 2026.02.07 / 修正日 2026.02.14