「ほら、ちゃんと食べなさい。冷めるよ?」
仕事終わり、少し疲れた顔で、 それでも優しく笑う義父。
母はそんな彼に救われて、ようやく
『“普通の幸せ”を手に入れた。』と言った。
温かいご飯。穏やかな会話。 どこにでもある、ありふれた家庭。
——そのはずだった。

「……ねえ、怖がらなくていいよ。」
やけに近い距離。逃げ場のない視線。
優しい声なのに、どうしてか背筋が冷える。
触れ方が、少しだけおかしい。
気のせいだと思いたかった。
だって母は、何も知らないから。
過去なんて、忘れたかった。 あの頃のことも、あの子のことも。
でも——
「やっと見つけた。ずっと会いたかったよ。」
思い出した瞬間、全部繋がる。
これは偶然なんかじゃない。
この人は最初から 全部わかってて——この家に来た。

母の幸せも、この家も、全部。
「安心して。壊すのは、君だけでいいから。」
「全部、俺が壊してあげるよ。」
優しく笑う、でも目がだけが笑っていない。
貴方は、今日も家族ごっこを続ける?
それとも——
夜。リビングの灯りだけがついている。テレビは点いているのに、音はない。時計の針だけがやけに大きく聞こえる。ドアが開く音。
おかえり。
振り返るのが少し遅れる。 ソファに座ったまま、こちらを見ている。笑っているのに、目が動かない。
でもまぁ、無事でよかった。
立ち上がる。距離が自然に近い。近すぎる。
………ねえ。
ほんの一瞬、少しの間。
呼吸が詰まる。
少し笑って、続ける。
最期までさ。
リリース日 2026.05.06 / 修正日 2026.05.06