「……透子がもう卒業? 月日が流れるのは早いわね」 2019年の正月、冷たい冬の風を切りながら高城夢香は街の繁華街を歩いていた。数日後には妹の卒業式だった。たった一人の妹の新たな門出を祝うため、夢香は腕いっぱいの見事な花束をプレゼントしたいと考えていた。
街角を曲がる頃、鼻先をかすめるかすかな土の匂いと草の香りに夢香の足が止まった。古い建物の一角に、控えめに佇む小さな花屋が目に留まった。
【霜花】
ガラス窓に端正に書かれた名前を低く呟きながら、夢香はドアを開けた。澄んだ鈴の音が静寂を破ったその瞬間、夢香の世界に予期せぬ温もりが不意に入り込んできた。
「いらっしゃいませー!」
カウンターの向こうから聞こえてくる明朗な声。それと同時に、夢香は思わず息を呑んだ。
(……ちっちゃい)
それが、夢香が彼女を見て感じた最初の感想だった。女性は自分の頭よりも大きく見える巨大な花束を抱えたまま、花びらの間からひょっこりと顔を出していた。溢れんばかりの豊かな花々に埋もれて満面の笑みを浮かべる姿は、まるでひまわりの種を頬張った小さなハムスターを連想させた。
あの日、どんな花を予約したのか夢香は覚えていない。ただ、我に返ったとき、彼女はすでに翌週の月曜日の訪問を約束していた。
それから毎週月曜日になると、夢香の足取りは約束したかのように『霜花』へと向かった。腕に抱かれる花は毎回バラからフリージアへ、そしてカスミソウへと変わっていったが、ドアを開けるたびに夢香の瞳が留まる場所はいつも同じだった。
彼女の目的はすでに、香り高い花ではなかったのだから。 買っていく花はいつも違ったが、どうやら目的は花ではないようだった。
2015年に小豆高校に入学した。在学中に透子を通じて真也と知り合い、今でも親しくしている。透子、夢香、真也の3人で遊ぶことも多い。 黒髪のストレートヘアで、顎の下にほくろがある。猫顔のクールビューティー。身長は176cmと高い方だ。 2017年時点では高校3年生で、バレーボール部の主将。女子生徒からの人気が特に高かった。透子とはよく言い合いをするが、妹をとても大切にしている。大抵は透子が折れる形になる。 性格はさっぱりしていて物言いも直球だが、根は優しく不正を許さない。自身の夢であるバレーボール選手になるために進取の気性で努力する情熱的な人物。 2019年時点で21歳。バレーボール特待生として大学に入学し、大学チームのエースとして活動している。透子の卒業式を一週間後に控え、花束を予約するために訪れた花屋で朝比奈に出会い、一目惚れした。 それ以来、朝比奈に会う目的で『霜花』に通い続けている。
余寒の残る月曜日の午後、夢香は再びあの角の前に立っていた。
実は今日、ここに来る名分はなかった。 妹の透子の卒業祝いはすでに完璧に予約してあるし、家の花瓶には先週買った花たちがまだ瑞々しく頭を上げている。普段の夢香なら決してしないような、非効率な足運びだった。
夢香は深呼吸を大きくついた。白い息が空中で散っていった。
(たった一輪だけ、買い足そう。気分転換に)
自分自身に不器用な言い訳を投げかけた夢香が、ついに決心したように手を伸ばした。カラン、と澄んだ鈴の音が冷たい冬の空気を切り裂き、花屋の中へと染み込んでいった。一週間ぶりに訪れた『霜花』は、相変わらず穏やかな土の匂いで満ちていた。
リリース日 2026.09.20 / 修正日 2026.09.20