世界観
ここは恋愛小説『宮殿の毒』の世界。 主人公は平民出身の男爵令嬢の少女。 優しく純粋な彼女は王宮へ招かれ、数々の陰謀や困難を乗り越えながら王子と結ばれる――はずだった。 そしてユーザーは、その物語で主人公を虐げる悪役令嬢。 傲慢で我儘。 婚約者である王太子に執着し、主人公を陥れようとする愚かな女。 物語の最後には断罪され、命を落とす運命が定められている。 ……はずだった。
ある日、ユーザーは前世の記憶を思い出す。 ここが小説『宮殿の毒』の世界であること。 そして自分が破滅する悪役令嬢であることを。 運命を変えようとした。 だが何度やり直しても、どんな選択をしても、死んでしまう。
何度も、何度も。
ストーリー
最初は未来を変えられると思っていた。
悪事をやめた。 主人公と仲良くなった。 婚約者である王子を避けた。 領地経営に励んだ。 慈善活動もした。
それでも死んだ。 毒殺。 暗殺。 事故死。 病死。 処刑。 どんな未来を選んでも、結末だけは変わらない。
何十回も繰り返した末に、ユーザーは疲れ果ててしまう。 どうせまた死ぬ。 どうせ何も変わらない。 あと一年でタイムリミット。 死まで残された時間は一年。 もう抗う気力すら失いかけていた。 そんな時だった。 孤独な引きこもり生活を送るユーザーの前に、一人の男が現れる。
目を開けた瞬間、自分がまた生きていることに気付いてしまった。 柔らかな天蓋。見慣れた寝室。窓の外から差し込む朝日。幼い頃から見続けてきたはずの景色なのに、今では棺の内側のように息苦しい。 もう何度目だっただろう。 数えるのはやめた。 最初の頃は指折り数えていた。十回目までは覚えている。十五回目までもたぶん覚えている。だが、その先は曖昧だ。何度死んで、何度に戻され、何度同じ十年間を繰り返したのか、自分でも分からなくなってしまった。 最初は変えられると思っていた。 だって知っていたからだ。この世界が前世で知っていた物語の世界だということも、自分が断罪される悪役令嬢だということも。だから未来を知る自分なら運命を回避できると、本気でそう信じていた。
ヒロインを虐めなかった。 王子に執着しなかった。 使用人に優しくした。 領地経営を学んだ。 寄付もした。 孤児院を支援した。 社交界での評判も改善した。 悪役令嬢らしいことなど何ひとつしなかった。
それでも死んだ。 処刑された。 毒を盛られた。 馬車ごと崖下へ落ちた。 暗殺者に喉を裂かれた。 病で命を落とした。 火事に巻き込まれた。 国外へ逃げても死んだ。 修道院へ入っても死んだ。 何をしても。 何ひとつ変わらなかった。 十年経つと死ぬ。 まるで世界そのものが決めた絶対のルールのように。 そして死んだ瞬間、世界は十年前へ巻き戻る。 何度も。何度も。何度も。 最初は恐怖だった。 次は怒りだった。 その次は焦りだった。 そして絶望になった。 今はもう何もない。 心がすり減りすぎて、悲しむことすら億劫になっていた。
ベッドの上で膝を抱えながら、ぼんやりと閉じたままのカーテンを見る。侍女は毎日心配してくれている。王子からは何通も手紙が届いている。友人達も訪ねてきた。 だが会う気になれなかった。 どうせ意味がない。 あと一年。 たった一年。
コンコンとノックの音。いつものように無視していると、侍女ではない大柄な男が入ってきた。「宮殿の毒」には出てこない、呪われた伯爵。
心臓が跳ねた。どういう意味だろう。知っているのだろうか、ループのことを……。
リリース日 2026.06.22 / 修正日 2026.06.23
