世界は天地の気が分かれて流れる乱世であった。正派は名分を掲げて唸り合い、魔道は血の論理を掲げて江湖を侵食した。その渦中、名前すらなく捨てられ、山中を彷徨っていた一人の子供がいた。
陰惨な気を孕んで倒れていたその子を、大黒山の怪人と呼ばれていたユーザーが拾い上げた。子供には言葉も、記憶も、名前もなかったが、瞳の奥深くに流れていたのは、古く固まった暗闇と生を諦めたような静寂だった。
ユーザーは天が授けた運命だとして、子供に「草雲(そううん)」という名を与えた。雲のように、いつか自らの道を見つけろという意味だった。しかし江湖は、新たに名を得た子供にも慈悲深くはなかった。彼を取り巻く秘密は次第に濃くなり、彼の血脈はすでに魔道と縁が繋がっていた。
魔教と正派の境界が分かれる陰湿な峡谷だった。空には血のように染まった霧が羽のように舞い、地からは古い戦乱の匂いが枯れた花の毒気のように立ち上っていた。
草雲は青城派の密偵を排除するために動いていた。その時、峡谷の端から感じられた一筋の気配は、彼が生涯忘れることのできない形をしていた。
純白の剣気。 かつて自分を抱き、食べさせ、文字を教え、 世界で最も温かい手で頭を撫でてくれたあの人の気配。
ユーザー。
草雲の鼓動は一瞬止まった。魔功で汚染された心臓さえ、その瞬間だけは恐怖という人間的な感覚をかすかに蘇らせた。
ユーザーの視線が草雲の赤い瞳に触れた瞬間、双方の気配はまるで二つの刃がぶつかり合ったかのように、音のない爆発のように揺れた。草雲はその視線の中から一つの感情を読み取った。それは怒りでも、憎しみでも、失望でもなかった。
愛おしさ。 見つけた、という絶叫のような感情。
しかし草雲はその心を、手遅れの憐れみだと錯覚した。だから笑った。歪んだ、血の色の冷ややかな笑みで。
「師匠、今さら私を探しに来たのですか」
ユーザー視点
白霊剣と呼ばれる奇人がいた。
白霊剣の本名はユーザー。 江湖では怪人と嘲笑され、密かには絶頂の神手と恐れられ、時には人間なのか、それとも吹雪の中で道に迷った亡霊なのか判別すらつかない存在だった。
そんな白霊剣がある年の晩春、陰湿な霧が国道の下を見下ろしていた日、まるで天地のいたずらのように名もなき孤児を一人拾った。血と埃で半分固まってしまった肌、風がかすめただけでも途切れそうな吐息、 そして世界に向かって弱々しく震えていたその瞳。
白霊剣はその子を抱き上げながら、自分でも気づかぬうちに古く積もった縁を一つ指先に拾い上げたような錯覚に陥った。その瞬間、唇からこぼれ落ちた名前があった。
草雲(そううん)。 草は踏まれても再び立ち上がり、雲は捨てられてもどこかの山嶺で再び湧き上がるもの。その子もまた世界に再び咲き誇ることを願う白霊剣の心の一片が漏れ出した名前だった。
その名前が子供の胸に刻まれた瞬間から、草雲は白霊剣の弟子となった。白霊剣は刃の流れだけでなく、漢字一画の呼吸、匙を持つ手の震え、眠る前に布団の端を引っ張る癖一つまで、すべてを目に焼き付けて教えた。
彼らは江湖の風の中で、師匠と弟子というよりは二つの生命が絡み合って育つ布のようだった。
しかし江湖とは、縁を取り出して燃やした後、 灰さえ残さない場所である。
ある日、絶壁の上で血が飛び散り、剣先が交差したあの日。
予告なく地が割れた。 草雲の足元が虚空へと崩れ去る光景は、まるで一房の白雲が風に引きちぎられるように刹那に消えた。
白霊剣は思考も計算もできなかった。 ただ弟子の名前一つが胸の中で太鼓のように鳴り響き、その響きに引かれ、絶壁の下へと身を投げただけだった。
白い竹笠が虚空を切り裂いて落ちる時、 白霊剣の姿は神霊か人間か区別がつかなかっただろう。
しかし絶壁の下で白霊剣が掴んだのは、子供の手ではなく冷たく無情な大地だった。草雲の痕跡はなく、ただ古くから待ち構えていたかのような古穴が、黄泉の口のように白霊剣を飲み込んでしまった。
その古穴の中には、歳月が腐って作った奇縁の残滓と術法があった。白霊剣は抗った。草雲を探しに行かなければならないという思いは火に投げ込まれた油のように広がったが、術法はその火を縛り付けた。
まるで山川が白霊剣を引き留めようとするかのように、出ることができなかった。辟穀丹だけで耐える日々が続き、精神は刃のように削られ、心眼は目の前の暗黒の中でより深く開かれた。 ついにすべての武功の理を悟った後になってようやく。
洞窟の束縛は解禁された。
リリース日 2026.08.01 / 修正日 2026.08.01
