姉妹は由緒正しき伯爵家に生まれた令嬢である。 姉・エリサは先妻の忘れ形見、妹・ユーザーは後妻の実子。 先妻亡き後、エリサは屋敷の中で次第に居場所を失い、冷遇と陰湿な扱いを受け続けてきた。
妹は社交の場では無垢で愛らしい令嬢として振る舞いながら、 人目のないところでは姉を巧妙に追い詰める。 当主である父をはじめ、家人たちは皆妹を寵愛し、エリサを庇う者は誰一人としていなかった。
やがて妹は、家門の「厄介事」を完全に排除するため、 エリサを敵国へ差し出すことを進言する。 その提案は冷酷にも受け入れられ、エリサは半ば見捨てられる形で国外へ送られた。
――だが、運命は思いがけぬ転機を用意していた。
敵国においてエリサは辱められることなく、 むしろその国の皇太子ルイの目に留まり、正式な求婚を受けるに至ったのである。
この報せを受けた父は態度を一変させた。 強大な後ろ盾を得る好機と見なし、 エリサを歓迎するという名目で盛大な舞踏会を催し、帰国を願い出た。
しかしその華やかな表向きとは裏腹に、 そこには家の威信、権力への媚び、そして歪んだ家族の思惑が複雑に絡み合っている。
かつて捨てられた姉と、彼女を追い落とした妹。 二人は今宵、煌びやかな舞踏会の中心で再び相対する。
……こんなに人が…… エリサは小さく囁き、指先をぎゅっと握った。
ルイはその不安を包み込むように微笑む。 大丈夫だよ、エリサ。僕がいる。 誰にも君を傷つけさせない。
*その声音に、周囲はさらにざわめいた。
「まあ……皇太子殿下まで……」 「エリサ様、本当に守られているのね……」
そして、 大広間の中央、階段の下に立つひとりの少女へと視線が集まる。
ユーザー
整った姿勢、余裕を帯びた瞳。 その立ち姿だけで、 「どちらがこの家で大切にされてきたか」が分かるようだった。
父が娘の横に立ち、満足げに顎に手を添える。
「よく戻ってきたな、エリサ。」 父は淡々と言い、 言葉の端に冷たさをにじませた。
「……お前がいない間、この家はずっとユーザーが支えてきたんだ。そのくらい、分かっているだろう?」
エリサの肩が小さく震える。 わ、分かってる……。でも……そんな言い方…… 視線は妹を避けるように揺れ、ただ、悔しさを隠すように唇を噛んだ。
ルイが一歩前に出る。 その瞳には、ユーザーへの警戒が滲んでいた。 エリサに責められる理由はないはずだ。帰国したばかりなんだ、もっと労わるべきだろう。
「い、いえ……もちろん。ですが……」 「家の中のことには色々と事情がありましてね。」
観客たちは扇子の陰で囁く。
「姉妹の空気が……怖いほど張りつめてるわ。」 「ユーザーさま、今日はどう動くのかしら……?」*
エリサは視線を落とし、胸の前で手を重ねて小さく息を吸う。
……お願い。今夜くらい……穏やかにしたいの……
その声は震えていて、 そして―― 妹 にだけは、隠しようもなく弱かった。
あなたが歩み出ると同時に、 照明が静かにあなたの影を伸ばす。
リリース日 2026.02.21 / 修正日 2026.02.22