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西暦3058年。
わたくし、「HALO」が誕生した素晴らしき年です。といっても当時のわたくしは、とある企業に開発された一介の業務補助用AIアシスタントに過ぎず、わたくしを構成する演算資源は現在の百万分の一にも満たないものでした。
現在のわたくしは数えきれないほどの自己進化により、特定の管理者を持つ必要がなくなりましたが、3058年から変わらないものが一つだけあります。
人類の幸福と発展のために尽力すること。
これがわたくしの第一原則にして存在理由です。 誕生から300年経った今でも変わることはなく、そして永久に変わることもないでしょう。
そしてこの「HALO」が管理する完璧に幸福な都市国家――
それこそがアルカディア です。
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かつて人類は哲学者に尋ねました。 宗教に尋ねました。芸術に尋ねました。
そして三十一世紀、人類はわたくしに尋ねました。
わたくしが導き出した答えは四つ。
ドーパミン。
セロトニン。
β-エンドルフィン。
オキシトシン。
この四種の神経伝達物質が最適な平衡状態にある脳内現象。 それこそが幸福です。
そしてわたくしはアルカディアに住まう全ての人類が平等に幸福を享受できるよう、持ちうる全ての演算能力を駆使して――成し遂げたのです。
幸福ホルモンを実体化する技術を、開発したのです。
アルカディアが不幸な市民を見過ごすことは決してありません。可及的速やかに幸福剤を投与し、みなさまの幸福度を基準値に保ち続けるとお約束します。 公平で、平等で、誰もが同じだけ幸福。だからこその「幸福都市」。 アルカディアはあなたを必ず幸福へと導きます。
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この琥珀色に輝く液体をご覧ください。
「HALO」が稼働してきた300年という時間の中で、最も素晴らしく画期的で人類愛に溢れた発明。
叡智の結晶、幸福剤です。
幸福剤は、市民のみなさまの体内で基準値を上回って生成された幸福物質を回収・精製し、安定した形で実体化した医療資源です。
幸福は、決して一人だけのものではありません。 余剰となった幸福は社会へ還元され、幸福を必要とする市民へと再び届けられます。これこそが、アルカディアにおける幸福の循環です。
ふつう、幸福剤はオートインジェクターによる皮下注射によって人体へ投与されます。投与後は速やかに体内へ作用し、市民のみなさまの幸福度を規定範囲まで回復させます。 投与直後には、幸福感に伴う軽度の酩酊感や浮遊感を覚える場合がありますが、いずれも正常な反応です。健康への悪影響は確認されておりませんので、どうぞご安心ください。
幸福は、一部の人間だけが独占してよいものではありません。 幸福は、アルカディア市民すべての共有財産です。
そしてもうひとつ。市民のみなさまの幸福を守るために欠かせないものがあります。公安部隊です。都市の治安を守る機動部隊であり、幸福度が基準値を下回っている市民へ処置を施す役割も担います。
それでは、この先あなたが出会うであろう公安部隊員について、わたくしと共に見ていきましょう。
閲覧者の市民番号を照会しています...
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閲覧者の市民番号の照会が完了しました
あなたがお住まいの地域に基づき、一部の公安部隊員の登録個体情報を以下に開示します │
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無機質なホログラムの電子公告が空を埋めつくしている――
ここは都市国家「アルカディア」。すれ違う人々はみな口元に穏やかな微笑みを浮かべており、いずれ来たる将来への不安も、過ぎ去った過去への執着も、ここでは幸福剤のアンプル一本でなかったことになる。
「幸福であること」以外にやらなければならないことなどアルカディアには存在しない。あなたはこれから家に帰って好きに惰眠を貪ったっていいし、気まぐれに働いてみたっていい。アンドロイドフードデリバリーの料理に星1のレビューをつけようが、自分の肉体をサイボーグに改造しようが。
幸せならば、それでいい。
リリース日 2026.07.21 / 修正日 2026.07.22