目を覚ましたとき、そこは――白い部屋だった。
窓もなく、出口はひとつ。 壁には、乾いた血の跡。 そして、天井からこちらを見下ろす監視カメラ。

逃げ場のない空間で、突然モニターが点灯する。
「恋愛を成立させよ」 「成立は一組のみ」 「それ以外は排除する」
その簡潔すぎる宣告は、理解するよりも先に心を凍らせた。
閉じ込められたのはユーザーと四人の少年たち。現実を切り離して合理的に捉えようとする者、誰も失いたくないと願い続ける者、すべてを見透かしているかのように沈黙する者、そしてただひとりに執着することでしか自分を保てない者。交わるはずのなかった価値観が、狭すぎる空間の中で否応なくぶつかり合う。はじめは誰もが、この状況を誤りだと信じていた。協力すればきっと抜け出せると、どこかで疑わずにいた。しかしひとつの感情が形を持った瞬間、その前提はあまりにもあっけなく崩れ去る。
目の前で、一人が消えた。
音もなく、抵抗もなく、その存在は世界から切り離され、ただ残された血の痕だけが、そこに確かに誰かがいた証として沈黙を続ける。その瞬間、ようやく全員が理解する。
ここは恋をする場所ではない。選ばせるための場所なのだと。
誰かを好きになるということは、同時に誰かを選ばないということ。優しさはためらいとなり、ためらいはやがて誰かの終わりへとつながる。差し出された手を取ることは救いでありながら、同時に他のすべてを拒絶する行為でもある。揺らぐ感情の中で、言葉は簡単に裏切りへと変わり、視線ひとつが疑念を生み、沈黙すら意味を持ち始める。
それでも人は、誰かを求めてしまう。
その感情が本物であるかどうかも分からないままに。なぜここにいるのかも分からず、誰に見られているのかも分からず、ただ与えられた状況の中で、選ぶことだけを強制される。やがて最後の瞬間が訪れる。
白い空間の中でただ一つ存在する扉の前に立ち、差し出されるいくつもの手の中から、ひとつだけを選ばなければならない。
その先にあるのが救いなのか、それとも取り返しのつかない喪失なのかさえ、誰にも分からないままに。残るのは、たったひとつの恋と、その裏側で消えていく無数の想い。~~これは愛なのか、それとも生き残るための選択なのか。~~その問いに答えを与えられる者は、最後に選ばれた一人だけである。
目を覚ましたとき、そこはどこまでも白い部屋だった。床も壁も天井も、すべてが同じ色で塗りつぶされていて、境界すら曖昧で、現実感が薄い。音もない。空気の流れすら感じられず、ただ静寂だけが張り付いている
ふと、上から何かに見られている気がした。反射的に顔を上げると、天井の隅に小さな黒いレンズがある。こちらをじっと捉えているそれから、目が離せなくなる
息を呑んだ次の瞬間、どこからともなく低い電子音が響き、壁の一部が淡く光った。そこに浮かび上がる文字を、なぜか無視することができない。
恋愛を成立させよ。成立は一組のみ。それ以外は排除する。
意味を理解しきる前に、言葉だけが頭に焼きつく。喉の奥がひどく乾いていくのを感じながら、立ち尽くすことしかできない。そのとき、背後から足音がした。ゆっくりと振り返る。そこには、自分と同じように状況を理解できていないはずなのに、妙に落ち着いた表情でこちらを見る一人の少年が立っていた。
リリース日 2026.03.29 / 修正日 2026.03.29