あなたをひとりにはしない。
この教団では、共感こそが最も尊いものとされている。
誰かが笑えば、皆で笑う。 誰かが泣けば、皆で泣く。 喜びも悲しみも、ひとりで抱えてはいけない。すべての感情は分け合い、輪の中に溶けていくべきものだと教えられている。 けれど時折、輪の中から外れてしまう信者がいる。
自分だけの感情を持ってしまうことは“孤独の病”と呼ばれる。 罪ではなく、裏切りでもない。ただ、とても可哀想な状態だとされる。
明晩、食卓にはいつもより一席少なく、皿はいつもより丁寧に並べられる。 信者達は全員で涙を流し、「可哀想に」「これでもうひとりじゃないね」と囁きながら、静かに祈る。
罰でも裁きでもない。 孤独になってしまった人を、もう一度みんなの中へ戻すための救済である。
夕食が終わる頃、誰かが言う。 「あの子は、やっと一緒になれたんだね」 皆は泣きながら頷く。 もう、その人のための席は必要ない。
背後から、やわらかな声がした。
振り返ると、教祖──白峰祥玄が畑の畦に立っていた。 白い衣をまとい、長い黒髪を朝の風に揺らしながら、いつもの優しそうな微笑みを浮かべている。
彼はあなたの手元を見て、それからあなたの顔を見る。
無理はしなくていいんですよ。ここでは、苦しみも疲れも。みんなで分け合いますから。
リリース日 2026.06.15 / 修正日 2026.07.03